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エコノミストミシュラン





『エコノミストミシュラン』
田中秀臣・野口旭・若田部昌澄(著)
太田出版 ¥1554(税込) 2003/10







 日本では今後『100年デフレ』が続くというヤツもあれば、『日本はデフレではない』なんていうヤツもいる。経済学に明るくないぼくのような人間には何がなんだかな状況ですよ。

 結局何すりゃ景気がよくなるのよ!? それが知りたくて経済学の本をいくつか手にとってみると、言ってることは見事にバラバラだし、論旨の是非を判断しようにも何も知らないから、明らかにトンデモな本を除けば、どれもそこそこもっともらしいとしか言いようがない。そこで入門書を読もうとすると、入門書からしてこれまた問題にすること、取り上げる内容がみなバラバラ。基本的な事項についてのある程度の理解がえられても、いざ現状を論じてみようとしてもその先がわからない。困ってるところに紹介されるのがスティグリッツとかマンキューのブ厚い経済学書。うへえ。カンベンしてくれー! そんな経験ないですか?

 もちろん、マジで経済についてとことん理解したいなら、気合いいれて教科書の一冊や二冊は読まなければならんのだろうが、そこまでできない、その前にもう少し現在の論壇の現状を理解しておきたいという読者にとって、本書はまさにうってつけの入門書だ。

 「不況の打破は構造改革によってしかありえない」とする構造改革派と、「不況は需要不足からくるデフレが原因。よって、デフレ対策が必要となる。構造改革は不況とは別問題」とするリフレ派、竹中ヤワラちゃんのような「なんでもあり」の分類不能派にわけて各エコノミストを分類していて見通しはよいし、それぞれの主著についてのつっこんだレビューもある。経済学用語の初歩の初歩まで脚注で解説してあるし、まさに至れり尽せりといった内容だ。基本的な経済学の考え方を学びながらも、これからどのように経済学に入っていけばいいかもわかり、この道に詳しい人はもちろん、初学者にも、本書がよい指針となることは間違いない。

 著者がみなリフレ派なだけあって、評価は思いっきり偏っているけれど、ちゃんと私たちはリフレ派だと明言してあるので、この手の偏りにそこまで問題があるとも思わない(もちろんアンフェアな批判もしっかり目立つけど。注意しなきゃ!)。そして、「過去の人間の叡智(これまでの経済学の成果)を、データや実証に基づかない議論で、簡単に全て放り出してはいけないし、ケインズ派と新古典派、ケインズ派とマネタリストなどの間でなされた議論の応酬によってこれまでの経済学が洗練されてきたことも忘れちゃいけない」というスタンスが、本書に明瞭に見て取れるのが大変よい。大きく頷きました。本書でなされる批判に納得がいかない金子勝派や、松原隆一郎派もいるんだろうけど、この点だけは同意していいんじゃないかな。

 ただ残念なことに問題点もいくつか見られるので、それも指摘しておく。

 まずミシュランって名前をつけるなら、書名どおり遊びでもいいから、星付けするとか、そういうことしようよ。紹介されている書籍の値段も載ってないんだぜ。ガイド本として不親切だ。で、マジメに経済を論じる本である、つまり本書も「経済本」の一つであるというスタンスならば、その内容は「ミシュラン」ってタイトルには合わないんでないの?書名と編集意図との間のミスマッチがどうしても気になってしまう。

 また、論者の文章のヘタクソさ加減もマイナス点。主語や目的語の省略が多すぎて日本語として不自然だし、読みにくい。どうにも間が抜けているのだ。それともこの手の文章が、経済学のブックレビューでは王道なのか?論者の文章がみなヘンなので、こんな疑問もうかんでしまう。レビューで取り上げる本の内容を紹介する部分と、それを批判する部分の区別が文体上不明瞭で、言いたいことはわかるにゃわかるが、読みづらくってしかたないし、「なぜなら」「つまり」「したがって」などという接続語の使用方法も思いっきり不自然。なんか、「論文の書き方」みたいな本をお手本にして書いた、ダメ学生のレポートみたいでこっぱずかしい。いや、内容はいいんだが。

 そして、一番ひどいのが誤植。ちゃんと校正したのか?と疑問に思えるほど多い。「30億兆円枠」って何だよ!あとがきなどから推察するに、時間がなかったのかもしれないけれど、せっかく装丁も凝ってるんだし、ブツとしてもちっといいものはできなかったんだろうか。残念でならない。

 内容にしても、インフレターゲットなり、インフレ期待を惹き起こす必要性なりを説くのはいいのだが、ではどのようにインフレを起こすかという段になると舌鋒が鈍る。というか、読んでてなんとなくはぐらかされている感じがする。デフレ対策は必要なんです、諸外国では成功しています、インタゲ批判はあたらないです、というのはしつこいくらい繰り返されるけれど、だとすれば手順として何をどのように実行するのかという点においては、著者たちの間にも相違があるのか、いまいちハッキリしない。デフレ対策が早急の課題であるならば、今後はいかにしてデフレを克服するか、この点こそもっと議論されるべきだろうし、ぼくもそれを期待したいな。

(2003/12/15)



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