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The Wumme Years 1970−3




The Wumme Years 1970−3 
 Faust(CD・2000)







 70年代にドイツで活躍、そして現在でも現役のロックグループ、ファウストの初期作品とレア音源を集めたボックスセット。第一作目の『ファウスト』、セカンドの『ソー・ファー』、それに、『BBCセッション』『71ミニッツ』『ファーストテープ』が入った5枚組。

 ぼくは実はジャーマンロックが結構苦手で、敬遠してるとこがある。ぼくの最近の趣味からいえば、グルグルとかノイバウテンとかって言われてもピンとこないし、ジャーマンロック特有のスペーシーな感覚とか、音響的アプローチなんかもどうでもいいしね。音楽に前衛性求めてないし、当時前衛とされてたものって、今聴くと結構ツラかったりするし、前衛性で語られがちなドイツ物は遠ざけてたんですよ。それでも昔はドイツ物を勉強したときはあったけど、最近ではほんと聴かない。だけど、このファウストだけはちょっと別なんです。

 このグループの魅力はやっぱりその野暮ったさと、どこか明るいユーモアを感じさせるところじゃないかと思う。ブックレットに載ってるメンバーの写真とか見ても、ルックスや衣装はどこか間が抜けてるし、音楽はなかなか実験的な内容ではあるのだけれど、おかたい印象はないし。ドイツ物(その一部)のキーボードとかシンセとかの音色が嫌いなぼくとしては、ファウストのゴツゴツした音や原始的なループはとっても聴きやすくて好きだ。

 個人的に一番好きなディスクはセカンドアルバムの『ソー・ファー』かな。ヴェルヴェットアンダーグラウンドみたいなナンバーから、人なつっこいメロディを持った曲まで様々な楽曲があって、それがツルツルッと流れていくのがとっても気持ちいい。次に何がくるのかという予測がいつも心地よく裏切られていくのだけれど、その脱臼する感じがこのバンドならではだ。他のディスクの音源に比べると大分内容が整理されているし、その目指しているところがこちらにもハッキリ伝わってくるという意味で、大変ポップ。アートワークもいいし、これが彼らのベストだ。

 『BBCセッション』『71ミニッツ』などは少しノイジーさや、音の乱暴さが目立つ。これも彼らの持ち味ではあるのだけれど、趣味じゃないなあ。セカンドに比べるとやりっぱなしな感も強い。ファーストアルバムの『ファウスト』は、ロックのイディオムを引用しながらも、それをことごとく裏切っていく・・・というファウストの(言ってみれば)得意芸が堪能できる作品で、ストーンズの「サティスファクション」ビートルズの「愛こそはすべて」の引用から始まって、不穏なピアノに流れ込んでいったと思ったら、いきなりまた風景が変化して、またもやすぐ切り替わるのかと思ったら、それが随分長く続く・・・ってな感じで、なかなかこちらの予想通りにいかない、そこがおもしろい、ってものなんだけれど、シリアスに回収されない茶目っ気、バカらしさが目立つ点で、前衛至上主義とは一線を画している。こういうところがいい。素直に聴けば、あまりロックに詳しくない人でも楽しめると思う。もっともロックマニア(かなり聴きこんでいる人)が聴いた方が、そのバカらしさを深く味わえるだろうけど(いや、これほんとバカらしいんだよ)。

 『ファウスト』だけはぼくも持っていて、このボックスの盤と聴きくらべてみたのだけど、音質がかなりよくなっていて驚いた。せっかくだからオリジナルの特殊ジャケとかも再現して欲しかったし、ボックスにしちゃあ体裁などが素っ気無くて、食指が動きにくいブツではあるけれど、この音質だけでもファンなら買う価値ありだ。



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