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Prince
(2003)








 復活後プリンスの最新作。各曲14分ジャスト、全4曲のインストアルバム。これがねえ、往年のファンからするとどうしちゃたの?と言わざるをえないような作品でして・・・なんなのさ、この引っかかりのなさは!

 弛緩してるってわけじゃなく、リラックスして演奏してる感じは伝わってきます。インストナンバーでも、ところどころにプリンスらしい少女漫画ライクなロマンチシズムも感じますし、そこが長年この人のファンをやってきた私としては愛せもします。BGMとして流していると心地よかったりするので結構聴いてます。

 だけどやっと復活して、02年には『レインボウチルドレン』という秀作も発表した彼の、ポップミュージシャンとしての狼藉を期待している私のようなリスナーからすれば、この作品のおそらくマスにはアピールしないだろう出来が残念でならないというか、もっと刺激的な音絵巻の出現を望んでしまうんですよ。心地よさ、気持ちよさに溢れたよい作品なんだけれども(聴いてるととってもハッピーになる)、もっと別種のポジティビティも味わいたいという、ファンの手前勝手な思いをどうしても断ち切れません。ドロッとしたもの、ジメっとしたものが削ぎ落とされちゃってて、聴きやすすぎる。

 最近のプリンスの作品に共通して言えることなんだけど、なんか近年の殿下の作品は今の彼のポジション、その居心地のよさを反映しすぎ、そこに安住しすぎじゃないか?

 好きな音楽をやって、聴きたいと願うファンがいて、そうしたファンに安定して音楽を届けることのできるインフラを得ることもできて、まあこれまでの苦難の果てにやっと理想の制作環境を手に入れることもできたんだと思うよ。でもさ、最近の諸作はそこに安住しすぎというか、彼の作品に時代や場所、というか<視点>を感じられなくなってきている。そこが不満。「プリンス印」はバッチリ入ってるし、他の人の作品にはないこの個性的な開放感は聴いてるととっても気分がいいのだけれど、見えもさわれもしない殿下、その素晴らしい御芳香だけが香ってきてるようで、昔からのファンとしてはそこに一抹の淋しさを覚えたりもする。

 カリスマ・プリンスの呪縛を断ち切ったのはいい。「昔のプリンスは・・・」ってグチをこぼしてばかりのファンの期待にそっくりその通りに応える必要はないだろう。でもそうした往年のファンに「別の仕方で」応えてくれてもいいんじゃないか。近年の作品がそうした往年のファンへの殿下流のリプライなのかもしれないが、どうもそこに納得いってない自分がいる。あまりにもあっけらかんとしすぎて、音楽の中に悩み葛藤が見えない。

 「そのままの自分肯定」、そんな安全なラベルに自分を閉じ込めずに、今こそ好きなように暴れたらいいんじゃないか。「昔のプリンス」なんじゃなくて、そうやって好き勝手かます今のプリンスこそ、ファンの一人である自分が、今聴きたくてしょうがない音楽なんだと思う。



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