トップページレビューの森>レビュー066

フランク・ザッパ自伝




『フランク・ザッパ自伝』
フランク・ザッパ+ピーター・オチオグロッソ(著)
茂木健(訳)
河出書房新社 \4500 2004








大爆笑。泣ける。んでもって、アメリカのいろいろが学べる。ぼくが熱心なフランクザッパ(以下:FZ)ファンだから言うんではなくて、名著だと思います。この本、とってもおもしろいんだもん。特定のミュージシャンの自伝という枠を超えて読まれてほしいと願う一冊だ。

前半は盟友キャプテン・ビーフハートの名前の由来から、マザーズ・オブ・インベンション(FZがやっていたバンド)結成のいきさつ、子供の頃の思い出や家族のことなど他愛ない話題が続く。でも、さすがザッパ、そこに徹底した読者サービス(ほんととにかく笑える)が盛り込まれていて、読む者を飽きさせない。自伝や伝記といったものは、その人物に興味ないと読んでて退屈なことが多いんだけど、この自伝は別だよ。笑いながら読める。10ドルの前借りを必死に頼み込んでいるデューク・エリントンを見てマザーズを解散することを考えただとか、警察の囮操作にひっかけられたことなど、興味深いエピソードも盛り込まれているし、これが後半への伏線になっていて、とにかく読ませるのだ。イギリスでの裁判の議事録には、腹筋つりそうになってしまう。

後半は音楽業界(現代音楽からニューウェーブまで)、キリスト教原理主義、レーガン政権、ロックの歌詞検閲の動きに対する言及など、硬派なトピックが続くのだが、ここでもFZは、巧みなユーモアと遊び心で、難しい話を敬遠させずに読ませてしまうのだからすごい。だが、それ以上に、この時点(原著は1988年刊行)でザッパが、現代アメリカの問題、そのベースを予言してしまっていたということに驚きを隠せないよ。オビ文句「マイケル・ムーアもリスペクト」は、ウソじゃないのだ。

ムーアの映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』でロックの歌詞検閲の問題が触れられていた。コロンバインでの高校生銃乱射事件の犯人が、犯行前にマリリンマンソン(「反キリスト」的な歌詞を持つ化粧ロックバンド)を聴いていたことから、マリリンマンソンのCDが問題なのではないか、危険なCDにはジャケットに警告シールを貼るべきなのではないかといった議論がされたんだけど、FZが行なったPMRC(parents music resource centerの略)への抗議、公聴会でのステイトメントは、完全にこの問題を先取りしている。アホでマヌケなアメリカ白人は、なるほど昔から同じことばっか言ってたのねと納得した次第。警告シールを貼るべしとの主張に、自ら「このアルバムには、真に自由な社会であれば恐れたり抑圧する必要のない内容が含まれています」と書かれた警告/保証シールを貼るという戦いぶりにも、ムーアの先達としてのFZが見える。

読んでると疑問を感じる箇所もないわけじゃない。歌詞検閲への反論などポイントがずれちゃったんじゃないの?と思うところもある(いつのまにかマスターベーションの話に移行してるし)。通常はウィットに富んだ話だと思えるのだけれど、怒りのパワーからかやりすぎて、議論の筋道がずれていってしまっている、わかりにくくなっていることがあるのは残念だ(ザッパのユーモアのほとんどは非常に明解なものなんだけど、対話の相手はガチガチ頭が多いわけで・・・)。ただ、ここで提示されている問題や、その解決法にはハッとさせられるものも多い。ザッパが提案したナイトスクールみたいな深夜成人番組とか、日本でもやってくれないかなあ。

テレビ伝道師に対する徹底した皮肉(それにしてもザッパのテレビ伝道師バッシングはほんとキビシイ)や、家族、子育て、税金についての意見などを交え、「みなさんと話ができて愉しかったよ。あっとそれから、投票者登録を忘れないでくれよ」という一文でしめられるこの自伝、ザッパの音楽をより一層楽しむためにも(彼のユーモアが日本人には言葉の壁でいまいち伝わりにくいんだよね)、今のアメリカをより深く知る上でも、ぜひとも一読をすすめます。ザッパアルバムの翻訳をしてきた茂木健の訳も読みやすいしね。・・・問題は値段がちょいと・・・ゴホゴホ。

(2004/04/01)

********************

湯浅学、大山甲日、八木康夫、山本直樹(なんだろうなあ、きっと)がだるい。それぞれ岩佐学、大山口実、山羊康夫、天本直樹って名前でコメント寄せてるんだけど、このセンスにまったくついていけないんだよな。ザッパのユーモアとは比べ物にならないよ。なんで、ザッパのアルバムの日本語ライナー書いちゃうような人の一部はこんなダッサイんだろう。ザッパにもオヤジな歌詞、ダサイ部分はあるけれど、本書を読んだ感じ、かなりヒップな印象を受けたのになあ。これと値段だけなんとかしてくれたら、ベストセラーも夢じゃなかったのに。

(※1・・・と書いたわけですが、大山口実、山羊康夫、岩佐学、天本直樹というペンネームもそのコメントも、大山甲日氏、八木康夫氏、湯浅学氏、山本直樹氏とはまったく関係がないとのこと。なので、上のぼくの感想も全く見当違いということです。ぼくのミスです。大山甲日氏、八木康夫氏、湯浅学氏、山本直樹氏にはご迷惑をおかけしました。訂正してお詫び申し上げます。 どうやらこれはオビを考案した出版社の方の「お遊び」のようです。それにしてもこのお遊びはおもしろくない。冗談としておもしろくないし、知ってる人だけわかればいいやというサークルノリがこれまたおもしろくない。オビに遊び心はあっていいと思うけど、消費者に対する親切も忘れちゃいけないんじゃないかと思うんですがどうでしょう。ぼくの早とちりの言い訳にはなりませんが。)

↑ではザッパファン、彼の音楽のファンとしての感想は述べなかったけど、ザッパを聴く人にここで一言。これを読むと歌詞や、アルバム製作事情など、かなりの謎が氷解します。あんまり自伝らしくない本書だけど、そういう意味でもかなり役に立ちますね。

ぼくが一番おもしろかったのは、FZの音楽論。これがわかりやすい、かつ、読み応えがある。「音楽の究極のルールは次のようなものであるべきだ。「もし君の耳にいいサウンドだと聴こえるなら、その曲は最高。もし悪いサウンドに聴こえるんだったら、その曲はクソ」」だとか、表現は迷いないし、いろんな話に言及してるし。アメリカのレコードビジネス、クラシックコンサートを開催する上での問題点、ポップソングと和音の関係、機材の発展とロックの歴史などについて述べられているんだけど、これが大変コンパクトでして。美学やポップミュージック、現代音楽に興味を持っている方は、これから読むといいかも。

(※2…親方によれば、上記の「もし君の耳にいいサウンドだと…」という文句はFZ本人のものではなく、デューク・エリントンの発言だったんじゃなかったっけ?とのこと。すんません、無知で。誰かご存知の方いらっしゃいましたら教えてください。)

というわけで、興味に応じて多方面から楽しめる本だと思う。最近一番のおすすめ本。



・前のレビュー
・次のレビュー