『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』(CCCD)
レディオヘッド
東芝EMI - ASIN: B00008SKP3
\2548
(2003/06/02)



 イギリスの若手(?)ロックグループの新作。前作、前前作(『キッドA』『アムニージアック』)は、ロック的楽曲の範疇を越えた実験的な曲作りや、いわゆる音響的アプローチが印象的な作品だったが、本作ではそうしたキャリアを踏まえながらも、もう少しソングオリエンテッドな作品を目指したようだ。全体的に、以前のアルバムより「ロック的」な楽曲が増えた。メンバーのトム・ヨークが最近ニール・ヤングに凝ってるらしいけど、それもなるほどと思えるようなアルバムだ。

 タイトルからしてブッシュに対する皮肉だそうで、結構シニカルな歌詞も目立つ。そしてこのバンド、「絶望を歌う」というか、かなり「暗い」歌を歌いバンドらしいのだが、ただ単純に「暗い」のではなく、そこにちょっとしたポジティブバイブレーションがあるのも、本作の特徴だと思う。

 レディオヘッドは現在若手の不振が続く英ロック界においても、群を抜いてるバンドだと思うし、その個性も際立っている。したがって、若者が(つってもぼくも若者かもしらんが)彼らに対して魅力を感じるのもわかる。ただ、このバンド、今後の可能性は見せながらも、今のイギリスロック界を引っ張ってるって言われるわりにはあまりにも小粒すぎやしねえか?とも思う。

 「独自の世界観を持った歌詞」と言われても、なんというか、現在のイギリスの若者の閉塞的な感じ、良くも悪くも閉じこもった感じがするだけで、単純なミーイズムに回収されてしまっている感じがする。まあ、それが今のユースに支持されており、ぼくはその輪に入れないだけなのだろうけど、「一見政治的なスタンスを持っている(つまり、不良性を持っている)ように見えながらも、実は「ぼく・私―世界」についてしか語ってない」ってのは、ものすごく不良度低いというか、どうしても世界が狭いように感じてしまう。そこには実際には政治に関する言及がない。なんだかんだいっても個人の肥大した自意識があるだけのような。

 サウンドに関していえば、確かに前作まではかなり実験的な音であるし、それを新作できっちり踏まえることができている。だけど、実はそのサウンド作りも、なんていうかぼくみたいなリスナーからするとあんまりおもしろいと思えないというか、大した新しさを感じもしなければ魅力も感じない。むしろ、実験的なアプローチが、作品全体の抑揚のなさに資していて、まあそれが「新しい」のかもしらんが、音楽として通して聴くのが意外につらい。本作の印象もメロディの起伏が乏しく、歌を志向したというわりに、なんかフツー。ボーカルもダルダルだし。中盤からそのフラットさに早くもだれる。

 このバンドのアイデンティティというか、このバンドが何を期待されているのかを考えてみた。今のイギリスものロックには「非ロック的でありながらも、そうした非ロック的あり方こそ、まさにロック」を体現することが期待されてんじゃないか。その主席がレディオヘッドだったのでは?と思った次第。「だった」?過去形?
 
 脱ロック、非ロックを志向するロックバンドにはいくつかアプローチがあって、1.最近のブラーのようにワールドミュージックの血を導入 2.プライマルスクリームのようなダンス的要素を志向する 3.音響系とかのようにテクノロジー駆使して、踊れはしないけど、今までのロックとは違う響きをもたせるアプローチ。今までのレディオヘッドは3の線で押していて、そして大変な成果をあげたと思う。順当すぎたくらいだ。メンバーみんなで音楽にマジメに取り組んでなきゃここまでの成果はあがらない。レディオヘッドは真摯なミュージシャンだと思う。

 ところが、この線を追求することを、本作ではとりあえず止めてしまった。もちろん今後どうなるかわからないが、サウンドの新しさという点では本作は以前の作品に比べて進歩している点はないように思う。そうすると、なんというかこのバンドに関して見るべき点が少なくなってしまうように思う。それが残念だ。ニール・ヤングというにはあまりにもメロがつまらないし、これだったら『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』を聴く。なんちゅうか、やりたいからやってるんだろうけど、それは聴いてる分にはつまらないんだって。

 ただ、トム・ヨーク含め、イギリスのロックのスターもかわいそうだなあと思うんだけどね。役割を期待されて、ロックの表現領域を拡張するにしても、そんなもん何作も作ってれば、当然発展は頭打ちになる。最初は驚きをもって迎えられたものも、後にはフツウのものとして聞かれてしまう。ある程度掘り尽くしたら、レイドバックして別の発展を目指そうって考えるのはすごくわかるし、そもそも「いつのまにかそういう期待にそうためだけに音楽やってんじゃねえか?」って疑問も湧いてくるだろうし。レディオヘッド、トム・ヨークのようなマジメな方たちの方がそうした思考に陥りやすい。本作のようなアプローチになるのも仕方ないなあって妙に納得。

(2003/06/30)



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