『スターピース』
ヨーコ・オノ
ビデオアーツ・ミュージック - ASIN: B00000705W
\2548

(1997/08/27)



 ジャケット写真見てよ。ヤバイでしょ、これ。もう軽く地球とか手の中だぜ。そんでもって、さりげなく首からハート型のペンダントが。これだけでなにやら傑作の匂いがしてきませんか?その通り、本作ロックの歴史に名を残す大名盤です。

 とにかくゲスト陣の容赦ないムダ使いが光ります。レゲエの名リズム隊、スライ&ロビーはいいとしても、キングクリムゾンのメンバーで、難楽器スティックさえ使いこなすテクニシャン、トニー・レヴィンが口笛(!)で参加してるのはどーよ? しかし、これさえも甘くて一番泣きそうになったのは、16歳でマイルス・デイヴィスに認められ、天才の名をほしいままにした名ドラマー、トニー・ウイリアムスがライトシンバルさえ叩かせてもらえてないことです。晩年のトニーがこんなところで活躍していたとは・・・。トニーよ、おまえは何をやってるんだ?って悲しくなりました。さすがビル・ラズウェルプロデュースです。他にもバーニー・ウォーレルとか、ゲスト陣の名前を見る限りは、ロックファンにはヨダレものの面子なんですが、それを無化するヨーコパワーに圧倒的にやれらます。

 一曲目「ヘル・イン・パラダイス」から爆笑&恐怖です。オノヨーコのトレードマークである例のボイスパフォーマンス(通称ボイパ)も聴けるし、とにかく気味が悪いロックナンバーです。で、さんざんやった後に2曲目のレゲエナンバー「アイ・ラブ・オール・オブ・ミー」に不自然につながります。「私は私。自分そのままを愛してる」みたいなメッセージの曲で、なんか326とか相田みつをが書きそうな歌詞なんですけど、一曲目でその絶対的になりたつヨーコの「個」を見せ付けられた後の話なので説得力があるというか、何を言ってもムダかな、って気がしてきます。歌は八分音符が出てくると符割りがメチャクチャになるし、コーラスとも全くあってません。いや、意図的に合わせようと努力しません。そんなこと気にしてどうするって感じです。なんたってヨーコは「自分の全てが好き」なんですから。

 アルバムは最後「アイ・ラブ・ユー・アース」で締めくくられます。「愛してるわ、地球」ってベタなメロディで熱唱されても・・・。フツウのヤツがやったらインチキ臭さの極致です。しかし、ヨーコが歌うとなんというか、笑っていいような、バカにしていいような気がする、ユーモアを感じるので救われます。しかし、笑っちゃいけないような気もする。だって完全にマジなんですもん、彼女。

 しかし、この人よく「歌がヘタ」「ハイトーン一本調子」みたいに言われるけど、マジな話ボーカリストとしては結構魅力的な人ですよ。日本でいえば野坂昭如の歌に感触は近いかもしんない。死ぬ前に一度でいいから二人のデュエットが聞きたいと思う昨今です。「レインボウ・レベレイション」とか歌詞もいいし、ヨーコの歌がとっても映えますね。名曲です。

 そうそう、この97年の日本再発盤にはボーナストラックとして、あの名曲「イマジン」のカバーがついてきます。これが、ジョンレノンのイマジンよりよっぽど感動的なトラックになってます(ビートルズファンの方、ぼくを許してください)。まず、「いまあじん、おーるざぴーぽー、りびーんらーいひんぴーす」ってフレーズの後の有名なハミングありますよね。あれをヨーコは「ヤッホーイ!」って歌ってます(信じてくれないかもしれないけどホントです)。「きみは僕を夢見てるだけだって笑うかもしれない」って歌ってるところでマジで笑いそうになるヨーコの歌こそ、この曲の歌詞の醍醐味を完全に引き出しているといえるでしょう。

 ロックとか音楽のフォーマットでは絶対につぶすことができないヨーコの個性、笑いそうになる気持ちと、正座して聞かなければならないような神聖な感じが拮抗していて、なにがなにやらわからん感じ、これは本作でしか味わえないものだと思うね。

(2003/06/18)


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