『世界の宗教101物語』
井上順孝(編)
新書館 ISBN: 4403250238
\1785
(1997/04)



 世界の様々な宗教について、その発生や変化の過程に関する記述を中心に解説した本。クリスチャン・サイエンスや大本教、ラスタファリ運動などといった項目があり、歴史的時代区分でいくと、近代にやや比重があるのが特徴。

 編集上の方針からして、各宗教の教義や、教えの詳しい解説などに関して記述がちょっと薄いって点は否めないのだけれど、各宗教の歴史的・地理的ルーツがおおまかにはつかめる内容となっているので、個人的には大変参考になった。

 まあ、ぼくは宗教学、宗教社会学に関してずぶの素人なので、あんまりたいしたことは言えないのですけど、宗教というものの幅広さ・バリエーションの多さにまず驚いた。キリスト教に限っても、フス、バプテスト、メソディズム、メノナイト、シェイカーズ、クエーカーと本当に多種多様。それが全部「キリスト教」って名乗ってるんだからすごい! そして、そうした諸派が成立するに至った過程には、それぞれ様々なドラマがあり、人間っていろんなヤツがおるなあと、そこにシンプルに感動しました。

 それと各宗教間の影響関係。ゾロアスター教とグノーシス主義をうまいこと折衷したマニ教とか、スーフィー+ヒンドゥのシーク教(かなり大雑把な物言いです)とか、時代や社会の変化が新たな教派を生み出した、その経緯に興味津津。オウムも幸福の科学も、多くの日本の新興宗教が、元をたどれば大本教からきてたり、とにかくもうグチャグチャ。他の宗派、宗教の影響にさらされなかった宗教などないことが(まあ、当たり前だけど)わかる。

 で、こうした多様でお互いに相互影響しあっているような宗教の、各社会への影響たるや、計り知れない。ガンディー暗殺や、現在のアメリカ保守派の思考、健康食品会社の設立、レゲエミュージックにまで宗教の影響は及ぶ。宗教を学ぶことは、これら社会の様々な事象を理解する上で役立たないわけがない。本書は、多様な宗教と、社会との相互作用に関して、かなりスッキリ整理してあると思う(もちろん、それでも十分ややこしかったりするし、スッキリさせているということは、結構端折ってるってことでもあるんだけど)。しかも薄くて、安い。とりあえず宗教に興味あるけど、どこから入ったらいいかわからないって人には、とにかくおすすめしますね。

(2003/07/13)


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