『その先の日本大国へ』
橋爪大三郎(著)
勁草書房 ISBN: 4326652675
¥2310
(2002/05)


 全体は三部構成になっていて、それぞれ「社会」「教育」「政治」がテーマ。個人的に読んでて益が多かったのは第二部「教育を取り戻そう」での、大学改革に関する政策提起だったんだけど、社会学に対する入門書としてこの本を読んだとき、もっともおすすめしたいのは、本書の第一部だ。

 本書第一部は、メディア論、家族論、都市論、組織論などのエッセンスが簡潔な言葉で述べられており、社会学という学問を全く知らない人でも、入っていきやすい内容となっている。「宗教ってのはコンピューターで言うOSだ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はそれぞれ同じウィンドウズのバージョン違いだと思えばいい」なんて発言など、「橋爪名言」も目白押し。社会学について特に詳しく知りたくはないが、どういった学問であるのか、そのイメージくらいはつかんでおきたい、って人には本書の第一部はピッタリくると思う。

 実は社会学は、研究対象によって方法論、アプローチの仕方がバラバラで、いまだうまく各方法論を統合できていないような学問だ(そこが魅力なんだけど)。そうした事情を反映してか、社会学者といっても、自分の研究領域以外はあんまり詳しくない人が結構多かったりする。

 知らない学問領野においては、一個一個、その領野内の各サブジャンルを見ていくことも、その学問に対するイメージを形成する上で役に立つと思うのだが、あまりの研究領域の広さに少しめまいがしてしまうことがあるかもしれない。まず、社会学から見ると社会全体はおおよそどんな風に見えるのかといった「社会学グランドセオリーの青写真」を見る方が、イントロダクションとしては適しているのではないか。

 本書第一部はメディア、家族、都市、宗教といった各ジャンルに関しての記述もきちっとなされてるが、その背後にそうした「グランドセオリーの青写真」が垣間見れるところが大変エキサイティングで、優れている点だと思う。加えて、短いし読みやすい。

 橋爪の長所は宗教社会学に関して幅広い知識を持っているところだろう。ここが、他の日本の社会学者と比べて格段に優れている。宗教社会学というファクターを加えることで社会の見え方が、全く変わってくるのだ。例えば9.11に言及した箇所など、日本人の性急なアメリカ批判に釘をさす冷静な視点が、宗教社会学的見地に裏づけされたものであることに気付く。そうした点に注意しながら読むと、本書の味わいはさらに増すだろう。

 第一部に関して主に述べてきたが、第二部「教育を取り戻そう」、第三部「新しい政治を作る」も積極的な政策提案がなされており、興味深い。今見ると、小泉首相をちょっとホメ過ぎなのでは?とか、違和感を感じない箇所もないではないが、こうした具体的で説得力をもった提案ができるのも橋爪の魅力だと思う。

(2003/05/26)



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