絶望から出発しよう(That's Japan 006)』
宮台真司
ウェイツ ISBN: 4901391305
¥788
(2003/02)


 宮台真司に関してぼくはあまりよい印象をもってない。これまでの著書、共著書も結構読んでたし、大学の社会学の講義などで彼の言う「まったり革命」とかについても聞き知っていたわけだが、彼に対しては「10年(20年)遅れのポストモダニズムを唱える(一応)社会学者」との印象しかなかった。

 さらに輪をかけて彼の印象を悪くしたのは巷で出会うミヤダイ信者のタチの悪さ。ミヤダイ信者の大半は(もちろんぼくが会った人に限ってってことなんですけど)、その意味もわからずミヤダイ・テーゼを振りかざすわりに現状の自己確認に終始するだけで(僕って何?)、ミヤダイが援用する社会学の基本的知識、マックス・ウェーバーがどんなこと言ってるのかとかさえ知らないようなヤツばかり。というわけで、宮台のことをアホな若者向け、なんちゃって社会学で満足できるヤツ向けの著者だとぼくはずっと思ってきた。が、彼の現時点での最新刊である本作を読んで少しその印象が変わった。この人が言ってることって結構マトモだ。

 特に大きく頷いてしまったのは次の二点。

1.日本には市民エリートが少なすぎる。このため政治/社会の適切なチェック&バランスが機能しなくなっており、システムが機能不全を起こしている。今後はこうした人材を育てるべし。

2.ポストモダニズムとは近代の社会システムが提供する『救済の神学』であり、システムの無自覚な補完物である。近代の外部があるというのは錯覚に過ぎず、ガス抜きとしての機能をはたしているだけだ。

 この二点については常々そう痛感していたことだったのでぼくとしては「いいぞ!宮台!」である。この他にも小室直樹の弟子の面目躍如たる発言を連発したり(表現と表出は違う、とかね)、性の自由化に対し「ウダウダ言う前に身を守るための知識を教えないと大変なことになると以前から指摘してきた」なんて箇所があったり。そこらへんも「うんうん」って大いに納得した。

 だがしかし。そこから先は納得のいかないことばかり。論理の飛躍も目立つ。例えば2で批判されるポストモダニズムと、宮台の言う「まったり革命」「意味から強度へ」なんてスローガンとは一体どこが違うのか。ここが全くわからない。

 ポストモダニズムもマルクス主義も具体的な戦略の欠けた「ユートピア思想」であると見破ったのは慧眼だったとしても、それに対する処方箋が「意味をもとめるな」というまったり革命だとしたら、それこそ後期資本主義に都合のいい言説の片棒かつぎってもんじゃないの? 「今でもこの戦略は当時は有効だったと思ってる」とか言ってるが果たしてそうだろうか? 疑問は残る。宮台を(意図的にか無意図的にかしらんが)誤読し、単純なミーイズムに陥っていくミヤダイ信者を見るにつけ、「これって「80年代ポストモダニズムの流行と記号的消費に浮かれてたニューアカ本読者との関係」の相似形なんじゃない?」という疑念を持たざるをえない。

 また宮台は最近になって「絶望を知れ」というスローガンを振りまわし始めた。これも意味不明。どうやら「ユートピア思想に陥って戻ってこないのは、ちょっとした失望とその充足だけで満足するような輩が多いためであり、もっと深い絶望を知ればそんなこと考えなくなる、したがって絶望を知るところから始めれば少なくともそういう非現実主義にははまらなくなるハズ(オウム事件のようなことは起こらなくなるはず)」という論理らしい。

 二つ疑問がある。上の論理のいい加減さ。オウム事件や政治改革の不徹底などと個人の「絶望」との関連が果たして宮台のいうほど相関するのかという疑問がある。そもそもなんで相関するのか、宮台個人の直感に毛が生えただけのロジックだけでは説明としてあまりにもヌルい。第2点。宮台が言うほどにはどうしたって社会の構成員は「絶望」しきることが<できない>というのが現実なのではという点である。

 宮台のいう絶望とは「自己の代替不可能性が成立することの不可能性に気付くこと」らしい。そして、彼は「みながあまりにも絶望してないことに絶望している」らしい。勝手に絶望する分には構わないのだが、「みんな本当は絶望できるはず」と考えることは、宮台個人の心情感情・価値観・傾向を他者に投影しているだけで現実をみない考えであり、それこそ一種のユートピア思想なのではないか。この戦略をとることのメリットがあまりにも薄いように思えるのだ。

 何はともあれ本作、なかなか楽しめた。\750というお手ごろ価格だし、これ以上長いダベリを読むのもつらそうなので、150ページばっかしのヴォリュームの本書は、宮台入門用として結構適しているのではないか。疑問に思う箇所も少なくないが、意外に食い応えのある人だなあと当初の印象を少し改めた次第。宮台のサイトへはこちらから。



■1つ前のレビュー
■次のレビュー