『ブランド帝国の素顔―LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン』
長沢伸也(著)
日本経済新聞社 ISBN: 4532191475
¥680
(2002/10)


 タイトルから「ブランド商売のあくどさ暴きの本」と勝手に思い、読んでみたら全く違っていた。今まであまり研究対象とされてこなかった高級ブランド。その経営を見ていくことで、ブランドマネージメントの知られていない側面を分析するという本でした。まあ、企業家とか、企業家に憧れるサラリーマンとかが読みそうな本ってわけです。日経ビジネス人文庫だし、おそらくそんな話だとは思いましたが。

 本書で主に分析対象となるのはLVMH(これで、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンと読む。ややこしい!)という企業と、その社長ベルナール・アルノー。ディオール、ジバンシィ、セリーヌ、ラクロワ、フェンディ、ダナ・キャナン、ロエベ、タグホイヤー、果てはお酒で有名なヘネシー、ドンペリなどのブランドまで、なんとおよそ50のブランドが、このLVMHという持ち株会社の傘下にあるという。要は買収されたというわけ。

 ブランド品に関する知識がまったくないぼくは、この事実だけでかなり驚いた。著者は様々なジャンルにまたがり各々強烈な個性を持ったブランドが一体どういった経緯で一つの会社の中に収まったのか、またおさまることでどういったメリットが各ブランドとLVMH双方にあるのか、こうしたことについて考え、LVMHに見られるマネジメントの特徴とその有効性を私たちに提示する。

 無知なぼくにとっては各ブランドの歴史や、デザイナーの経歴、またテレビドラマとブランド商品の関係や、シャネルズの改名はシャネル社からのクレームによるものだという事実など、その手の記述だけでこの本を十分楽しむことができた(巻末についてるブランド・人物名鑑も親切)。

 しかし、一番おもしろいのはやはりLVMHの独自の経営手法の分析だろう。著者はLVMH社の経営の以下のようなメリットを指摘する。

1.様々なジャンルにまたがるブランドを包摂することにより、浮き沈みの激しいファッション関係ブランドのリスクを、手堅めの酒ブランド等の収益で補うことができるなど、ポートフォリオを組むことができる。

2.特定ジャンルのブランドが新しいジャンルの商品に参入しようとするときに、同じ傘下に入っているブランドの技術・ノウハウを活用することができ、ブランド商品拡大のために全てを一から作らなければならないといった難点を回避することができている。

3.同ジャンル内でのブランドはライバルとしても互いに互いを高めあうシナジー効果を発揮する。

4.マネジメントのプロ(LVMH)とブランド創作のプロ(各ブランド)とを分離することができ、各ブランドは商品開発などに十分に専念することができる(この点で失敗したのが高田賢三がいたころの「ケンゾー」のケース)。

5.ゆえに、より大きなビジネスをより低リスク/低コストで展開することができる。

 非常に興味深い分析なのだが、この手の本を読んで疑問に思うのは、やはりそういったマネジメントの手法がわかったところで、実際にそれを実行するとなれば話は別であり、それってむなしくないか?って点。はっきりいってマネジメントは知識だけではできないもので、絶妙なバランス感覚、決断力、行動力があってこそのものであり、そんなことができる人っていうのは(この本を読んでもわかる通り)、本当にごく少数の人間だけだ。この手の学問にぼくがあまり強い興味をもてないのはそこらへんに理由があるのかも。あと、合併買収を繰り返し、どんどん巨大化する企業に関して、なんかしらの危惧はないのか?とも思う。マル経みたいに批判しまくるのもイヤだったりするのだが、果たして「興味深い」ですましててもいいものだろうかとも思ってしまう。

 ただ、この本はマネジメントに興味ない人にもおもしろい点が多々あるし、多くのデタラメ経営本とも一線を画した充実した内容なので(ちゃんとしてる)、その点は評価できる。



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