『グリコのおまけ』
筑摩書房 ISBN: 4480872108
¥1325
(1992/11)


 グリコのおまけ、その代表的なものの写真と、著名人(荒俣宏・所ジョージ・鶴見俊輔・天野祐吉など)のコメントからなる本。グリコのおまけの変遷から社会の変化や当時の文化背景を想起するもよし。昔遊んだおもちゃの写真を見てサウダージに浸るもよし。単純にデザインやなんかの資料として手元に置くのもよし。好きに読むのがいいのではないか。見てるだけでかなり楽しめる本だ。

 ぼくはなんといっても「おまけ」やキャラメル包み紙のシュールさに注目したい。例えばグリコおみくじの言語感覚の尋常でなさは筆舌に尽くし難い。「しつているえいごをいってごらんなさい」「アメリカへゆけます!おおきくなつて」「きつとおもしろいゆめがみられます」などのメッセージには、読んでいるうちに軽くヤラれてしまい、これが「おみくじ」だということを完全に忘れてしまいそうだ。「テキニモ/グリコヤル/イクサゴッコ」「アテテゴラン/グリコデセウ」「オバサンガキタ/グリコガキタ」といったグリコ俳句(?)にも、少ない文字数かつ「グリコ」という語を必ずいれるという二つのシバリを加えただけで、こんなにおもしろくてシュールな文芸ジャンルになるのか!と目から鱗の感激をウケた。

 もちろん「おまけ」そのものの魅力も見逃せない。初期グリコのおまけは、「集める楽しさ」といった記号的消費願望を満足させることにあまりウェイトをおいてない点が、コレクション型のおまけが主流の現在から見るとえらく新鮮だ。 次にグリコを買ってもらうまでの束の間の楽しさを提供してきた「グリコのおまけ」。まさに一粒300メートルといった趣だ。

 ちょっと説教くさくなっちゃうけど、最近のおもちゃって遊びきれるものがどんどん少なくなっているような気がする。一つのモノで「遊びきる」「満足する」って経験が得難いものになってきているとするならツライ話だなんて思ったりもするのだ。人生のマラソンは長いようであっという間。そんなに焦って次に行かなくても、一粒300メートルずつ、のんびりのんびりいきたいですよ。



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