第2回 |
キング・カーティス 『ライブ・アット・フィルモア・ウエスト』 (1971年) 1.メンフィス・ソウル・ステュー 2.青い影 3.胸いっぱいの愛を 4.アイ・スタンド・アキューズド 5.チェンジズ 6.ビリー・ジョーの歌 7.ミスター・ボージャングル 8.涙をとどけて 9.ソウル・セレネイド 森 久しぶり。調子はどうだい。ウイルスとかにかかってない? お前、そういうのに弱そうだもんな。多分、一番最初にインフルエンザにやられるよ、白木は。 白 今ちょっとお腹痛いんです。ウィルスね…今度ので死ぬかも。 森 今度ので死ぬな。断言できるよ。みんなにも断言しとこう。白木は今度死にます。 白 やめて! めちゃくちゃびびってんだから! うがいかなりしっかりするようになりましたよ。 森 バンドも首になったんだって? 白 なったよ。 森 戦力外通知を受けてどうだった? これで晴れて本当のフリーターじゃん。フリーターは夢なんか追ってちゃいけない。仕事に専念しなきゃね。 白 どうだったといわれても…。別になんとも思わなかったな。 森 だからそんなクソバンド早くやめろって言ったんだよ。やめないから、リストラされてやんの。必要のない屈辱を受けて楽しいか? 白 う…。 森 お前のミュージシャンの経歴に永遠に残してやるからな。なんだっけ? 本当に忘れたんだけど、どーしよーもないダサい名前の…。 白 首にしたリーダーがこのページ見てるかもしれないんだから、そういうこと言うのやめて。 森 ふん、人のいいヤツめ。最近の音楽的収穫はどう? ぼくの方は、新宿のジャズバーに行って、「どんなの聞かれるんですか?」って問われたから「ジャズってジャンルはそんなに好きじゃないです。どっちかっていうとロック」って言ったんだ。そしたら「クラプトンありますよ」って言われたから、クラプトンはハッキリ嫌いだと言ってやった。ジョニー・ギター・ワトソンをかけてくれたよ。今度白木もそこに連れて行ってやるな。 白 じゃあ、俺が「最近のクラプトンどうよ?」って喧嘩売ったブルースバーにお返しに連れて行ってあげるよ。 森 ブルース・バーでクラプトンを貶したらダメだよ。 白 ジャズ・バーならいいのかよ。っていうか、ジャズが好きじゃないなら、ジャズ・バー入らなきゃいいのに。 森 ハセガワと一緒に行ったんだけど、あいつの方がすごいぞ。せっかくかけていただいたレイ・チャールズのビデオ見て「この人知ってる。缶コーヒーの曲歌ってる人だ」とか言いやがった。 白 スティービー・ワンダーと間違えてるわけか。でも、知らない人にとっては正直、間違い探し的なところあるからな(*)。 森 あとはそうだな。最近ニック・ロウ(*)のアルバムを買ったんだけど、これがすごくよくってね。いまさらだけどXTC(*)も買ったな。トッド・ラングレンプロデュースのヤツ。 白 ぼくはね、まず1920年代のジャズとかクレツマーとかをぐちゃぐちゃに演奏する、セックスモブってバンドを買った。それからジョン・ゾーン(*)のレーベルからでているシリーズ、ラディカル・ジューイッシュ・カルチャーからでているアアロン・アレキサンダーっていうドラマーのCDも買った。これもユダヤ音楽のニューウェーブだね。それとジャコがドイツのトロンボーン奏者のとやってるやつも買ったな。 森 正直知らないのばっかりだな。 白 セックス・モブは面白かったよ。買ってないけど試聴して面白かったのはストーンズ(*)。最新作いいよ! キースのカッティングからはじまんだけど、案の定、チャーリーが入ったらテンポもノリも変わるという。 森 うーん。評判聞いてると、おそらくデキはいいんだろうけど。「最盛期」のこと考えるとね。なんてったって現在のストーンズには、ビル・ワイマンいないんだから! あ、当時もいなかったっけ? 白 いたけど、ほぼ弾いてないよね。 森 弾いてないけど、いたわけだ。それ重要だよな。ぼくは勝手に重要だと思ってるけどな。 白 いや、重要でしょ。身にしみてわかるよ。 森 しかし、みんなよくストーンズの新作とか、ポールの新作とかチェックするよなあー。 白 しちゃうなぼくは(笑)。 森 聴かなくても状況説明で結構わかりそうだから、チェックする気になれないんだよね。そのくせ、すごく気になるしなあ。 白 いや、俺も一緒っすよ。わかってるけど、すげえ気になっていて、そういうところにたまたま試聴機があるから。 森 さて、まあ、今回は、前回予告した通り、キング・カーティス(*)についてグダグダ語っていこうってことなんだけど、キング・カーティスのアルバムにも、ストーンズのセッションでお馴染み、ビリー・プレストンが参加しているね。 白 そうだね。してるね。ビリーといえばビートルズのセッションにも顔だしてるしね。 森 レットイットビーのセッションだな。確か。 白 そうそう。 森 白木くんはもちろんビリー・プレストンは…。 白 大好き。というか、良いも悪いもロック寄りのセッションでオルガンと言えばプレストンしか知らん。知ってるけど。 森 知ってるだろ。ビリー・プレストン、この『フィルモア・ウエスト』でもいい活躍してるね。白木的な聴き所、プレストンの味わい方について、いろいろ皆さんに教えてあげて差し上げてよ。 白 最近聴いてないからな。よし、じゃあ、今から一緒に聴いていこうよ。まずは1曲目から! 森 このアルバムの何がいいかって、まずはこの一曲目「メンフィス・ソウル・ステュー」だろ。「1/2ティーカップ」のベースに、「1ポンド」のドラム、「大さじ4杯」のギター、「一つまみ」のオルガンと、音が少しずつ足されていく。で、最後にカーティスが「1/2パイント」のサックスを足してメンフィス・ソウル・シチューの出来上がりって寸法ね。もう、このジェリー・ジェモットのベースだけで、「どうにでもしてくれ」って感じにさせられてしまうからなあ。 白 だよね! このベース!!! 森 いろんなとこで何回も言ってるけど、ぼくのベース・ストライク・ゾーンは当然ここだね。ベースだけで、これだけ音楽的に語れないとベースの意味ねえや。いわゆる「これでメシが何杯でもいける」ってヤツだ。 白 弾けると言う意味では誰でも弾ける。でも、弾けない! 音色といい、タイミング、ノリ、これが最高ですわ。んで、バーナード・パーディーが入ってきて。このスネア!聴き所です!あと、オカズのハイハット、「バシバシ」も。コーネル・デュプリーのこの入りとかもすごいいいでしょ? 森 いいね。切り込んでくるかのようなギターってのはまさにこれだよな。ハッキリ言ってぼくはこのアルバムで一番いいと思うのはやっぱデュプリー。MVPはデュプリーだな。 白 もちろんぼくもそうだよ。上手い、美味しいという意味ではデュプリーが最高。 森 このアルバム、ぼくは親方(*)からもらったんだ。親方は別に好きではないらしく、そんなに好きならあげるよってんで、確かトーキングヘッズかなんかのアルバムと交換したんだよね。今回は、「なぜ親方はこれが好きじゃないのか」について是非考えたいね。 白 ああ、それに関しては一昨日親方と電話で話したんだけど、このアルバムの話になってね。「みんないいっていうけど、どこが?」だってさ。 森 へ? どこが? いやさ、実はさ、二人ともこれ、大好きじゃん? 白 ぼくと森くんはね。 森 で、なんで大好きかって、説明してもいいんだけど、説明せんでもよさはわかるじゃん。難しい音楽じゃないしな。自分のストライクゾーンはそこなんだよ。とにかく楽しいってのが好きなんだ。このアルバムもそうでさ、もうわかりやすいくらいにわかるじゃん。 白 おそらくみんな好きだろうって感じだよね。 森 だから、こっちとしてもさ、説明すること、特にないんだよな。また、日本版のライナーノーツ(解説)がピーター・バラカン(*)だろ? バラカンのライナーすごくいいしなあ。 白 いいよね。データも痒いところに手が届く。 森 イギリス生まれのクセして、日本語も大鷹俊一(*)よりよっぽど上手いんだよ。だから、このアルバムについて言えることは、騙されたと思って買って聴けと。それだけなんだよね。付け足して何かいうとすれば、「バラカンにハズレなし!」ってことだね。 白 ほんとその通りッスよ。ハズレない。 森 これは今まであんまり音楽聴いてなくて、どこから聴いたらいいのかわからないって人は覚えておくといいよ。適当に店頭でCD棚あさって、「解説 ピーター・バラカン」って書いてあったら、迷わず買っちゃうってのは手だと思う。 白 うん、しかもロックでもジャズでも、ワールドミュージックでも。いろんなところでライナー書いてるからね。バラカンは。 森 そうそう。ジャンルも広い。だから、素養も広がるし、意外な出会いもある。「どこから入ったらいいのかわかんない」って人は、これ参考にしてもらえれば、音楽地図がグーンと広がるよ。 白 マイルスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』もバラカンなんだよ。 森 すぐマイルスの話に持っていこうとするな、白木は。まあ、そういう訳で、ここで語りたいのはさ、このアルバムがダメって人はどこがダメなんだろう? ここだよな。 白 そうそう。ぼくも電話で親方にそう話したの。どこが不味いか一緒に考えよう、と。というか、例のごとく、ぼくが一方的にこういうところが嫌いじゃないのか?というふうに話したんだけど。 森 親方かわいそうに…。白木の相手、さぞめんどくさかったろう。 白 まあ、まずはキング・カーティスのサックスが好きじゃないんじゃないかな。この暑苦しい歌心が嫌いなんだよ。 森 まず、思い当たるのはやっぱりそこだろうな。クールな音色でも奏法でも一切ないし。白木的なカーティス評価はどうだろう。 白 ここでのカーティスは好きだね。こういう力技の人ってさ、世間的には「こいつが吹いていたらバックなんてどうでもいい!」みたいに言われない? 時々こういうこと言う人いるよね。 森 でも、このアルバムはそのどーでもいいはずのバックがすごい!つーか、個人的にはバックがすごい!って思う。それが素晴らしいと。 白 ぼくはね、バックがつまんないとイマイチだと思うんだよな。バックがいいときだけ、最高なんだよ、こいつ。あと大事なのは選曲、曲順だね。「青い影」なんて、街角でできれば聴きたくない曲ナンバー1じゃん。 森 あー、想像しただけでむかつくねえ(笑)。 白 でも、俺はこのアルバムのこの流れ、この選曲大好きだな。 森 ノリノリの曲と聴かせる曲が交互に出てくる構成だよね。 白 ツェッペリン(*)のカバーもぼくは面白いと思うんだよ。理由はわかってると思うけど。 森 ぼくはいつも飛ばしてるけどね。ツェッペリンのカバーは。 白 あれ、そうなの? 森 ジミ・ヘン(*)のカバーは好きだけどさ、ツェッペリン・カバーはムチャクチャじゃん。 白 だからそのぶち切れ感が好き。いいんだよ。これさ、フィルモア・ウエスト(*)でのライブでしょ? 森 まあ、オーディエンスはほとんど白人だよね。 白 そう、マイルスも演奏した場所なんだけどね。 森 またマイルスかよ。 白 だから白人ウケ狙って、この選曲でしょ? 当時はよくあることなんだけど。 森 選曲では「おもねる」んだよな。ところがどっこい。聴くと全然「あの曲」じゃない! 白 レッド・ツェッペリンのこの曲「胸いっぱいの愛を」だけど、カーティスのやつ嫌いでしょ。絶対演奏すんの嫌なんだよ。これ、完全にレコード会社か主催者の人のリクエストなんだよね。 森 ジミヘンカバーとの落差がすさまじいよな。多分、カーティスはジミヘン「は」好きだろ。 白 大好きだろうな。だから、ツェッペリン嫌だから、これは、リフだけ多少コピーしてあとはもうやりたい放題でしょ? このホーン隊アレンジとか。リフを思いっきり吹かせるってだけだもんな。んでドラムに渡す。で、一気にイヤイヤぶちぎれて吹いて終わりだよ。最高じゃん! 「じゃ、やってやるから、お前ら文句いうなよ?」って絶対、了解したときに言ってるもん。で、このアレンジ、短さ、一気阿世の吹きっぷりっすよ。 森 たまにさ、「なんでツェッペリン?」とか「こんなカバーしなきゃいいのに」とか言うヤツ見るけど、何もわかってないよな。しろっていわれたからしてんだよ。当然だよ。 白 そんで、ぼくが言いたいのは、次の曲もまとめて聴いてくれってこと。いやらしいデュプリーのギターに乗って、ワウワウペダル(*)まで使って歌いあげるじゃん。つたたーつたたーつたたー、ぶわー!とか、もうためてためて歌いあげてる。えらい落差だよね 森 要するに、こんな風に丁寧にできるバンドなんだよね。それがツェッペリン・ナンバーだけ超適当っていう。 白 もう、こっちとしては笑いがとまらん。 森 また、そんなツェッペリン・カバーで拍手喝采してるオーディエンスのマヌケっぷりもいいよな。これ、多分、素直に「やったあ!この曲知ってるぅ!」って喜んでるんでしょ。 白 そうそう! でも、カーティスは「ふん!」だよ。「こいつらわかってねえよな?」ってメンバーに声かけて、「本物みせてやっか?」でワウペダル、オン!だよ。 森 いつもながら見てきたように言うよな、お前は。でも、ほんとそうで、やれっていわれたからやったし、収録しろっていわれたから収録してるんだよ、きっと。このアルバムを貶すときに、よくこのツェッペリン・カバーがあげられることがあるけど…。 白 全然わかってないよね、ぼくらから言わせれば。 森 そういうのわかってないで、グダグダ言うヤツ多いよな。「このカバー嫌い」って言うけど、少なくとも嫌いなのに演らなきゃいけないヤツの気持ちを考えてやれよと。多分、カーティスが一番この曲嫌いだろ。 白 絶対そうだ! 森 ま、ぼくはそんな演奏、聴くのダルいからいつも飛ばすけどね。 白 ……。 森 一方、ジミ・ヘンドリックス「チェンジズ」のカバーはソロの応酬がスカっとするね。ビリー・プレストンのソロもいいけど、ここでの、デュプリー・ギターの意地の見せ方がかっこいいよな!! ビリーのソロのバッキングも文句ないし。 白 もう、この曲はギターソロでしょ、聴き所。 森 デュプリーのギターが楽しみたければここだよね。 白 ジミヘンの曲をジミヘンと同等程度ソロ弾けるのデュプリーだけだもん。これぼくの持論です。みんなジミヘンに謙遜しちゃったソロ弾くじゃん、ジミの曲だと。 森 戦わないんだよね。完全リスペクト&サレンダーなギターになるよな。 白 そうそう。で、ブルース系の人だとさ、演奏したくて演奏してるのか、サービスで演奏してるのか、どっちかわかんないときとかってない? 森 あー、わかる、わかる。たまに、自分へのサービスだったりもしちゃうんだよ。客へのサービスにかこつけて、ジミヘン・ショーで自分が一番気持ちよくなってたりする。だけど、ここでのデュプリーはもろ戦ってるから。しかも、勝ちにいってる。そこが大変感動的だよな。まずアティチュードとして。 白 勝ちにいってるし、自分では勝ってると思っているはず。 森 ぼくは、デュプリーが勝ってると思いますよ。 白 勝ってるね。しかも、なんつうか「勝ち逃げ」みたいな雰囲気に聴いた者をさせる。もう自分で何いってんのかわかんないけど(笑)。気負ってもいないでしょ? 森 弾いた後に自分が審査員になって「勝った!」って勝ち名乗りしてる感じだよね。 白 してる、してる!俺もよくわかる。 森 だから、お前は見てきたのかよ(笑)。ここでのデュプリー、ギターを格闘技じゃなくって、果し合い的に捉えてるじゃん。 白 うん。 森 審査員がいて、あーだこーだ評価下すんだけど、で、試合を放映してるテレビ的には「優勝者ジミヘンです」なんだけど、なんとなく「やっぱり二位が一位だったんじゃないか」って気になるもん。それは全部、あの二位のヤツの「絶対オレだもん」って顔だよな。あれのせいで、そういう印象になってるっていうかさ。 白 違うかもしんないけど、武道の達人を前にしてさ、みんなは戦わずして「参りました」なんだよ。でもデュプリーははじめの前に自分の得意技いきなりだして、反則負けで二位。で、表彰台で例の表情だよ。「武道ってこうでしょ?」みたいな。 森 ほんとここでのデュプリーソロは必聴だよね。この曲以降の流れもいいなあ。後半も素晴らしい。8曲目の「涙をとどけて」。ぼく、こういうのが好きでねえ。しょうがないヤツですまんって感じだけど。みんなで「チャーチャーチャーチャ、チャッチャチャーチャー♪」ってレスポンスが大好き(笑)。ごめんな、ワンパターンで。でも、大好きなんだよ。これはもう、ぼくの趣味。 白 よくわかる。このリズム、森君絶対好きだよな。奇しくも前回と同じこと言っちゃいそう。これ完全にケツから2曲目じゃん。ビリープレストンのオルガンもちょっとラフでいいよね。ライブが終わりに近づくとミュージシャンはどうなるか、っていうのは前回の対談読んでもらえばわかるから。 森 まあ、ほら、そこは…じゃあ、ぼくも前回と同じこと言ってみようかな。ビリーはビートルズわかってっから(笑)。で、この「涙をとどけて」の次が、これはもう必殺の「ソウル・セレネイド」。 白 うん。吹く前のMCもすごい好き。いいよね。 森 こういうところのカーティスの歌心はほんと素直にいいと思わないかい? みんなに聴いて欲しいけどね。これと、同日のアレサのライブはね。 白 ねえ。 森 聴き所もハッキリしてますから。デュプリーの対ジミヘン戦、プレストン終盤のラフさ、カーティスの暑苦しいサックス、ジェリー・ジェモットのベースに、バーナード・バーディーのスネア&バシバシ!ね。 森 さて、白木くん、次回の対談は何でしょか。 白 ぼくはこんな音楽をやりたい! 超寡作ミュージシャン、ハース・マルティネスのオシャレでオトナな作品を取り上げます。 森 お疲れ様でした。ウイルス…。 白 言わないで。ほんとビビってるんだから! (2005・12・02) |
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