第1回 |
![]() チープ・トリック 『チープ・トリック at 武道館』 (1979年) ――期待を裏切り、予想通り。白木、二時間の遅刻。 白: 実は今日こんなに遅くなったのは、父親に説教くらっていたからなんです。 森: 26にもなって父親から説教か。さすが白木って感じだな。 白: 森くんと話す前に父親と会う約束してて。今日、ほんと不運な日で、すっごい愚痴たまってるの。昼間、携帯の機種変更しにいったんだけど、そこの店員がものすごくバカでね、5分ですむような話を1時間も待たされてね、で、父親が怒ってね、その後二人で飲みに行ったんだけど父親(以下、非常に長くなるので略)。 森: ハイハイ。大変だったねえ。…って、待たせておいて、いきなり愚痴りやがって。このバカ。ほんと白木は人間のクズだな。 白: ごめん。 森: じゃあ、駆けつけで悪いけど早速はじめるか。森と白木のロック談義だ。ダラダラと大事なことを喋っていくことにする。第1回ということで、日本人にも馴染み深い、チープトリック(*)をとりあげてみた。 白: 確かに日本人に馴染み深い! なんせ、日本から人気に火がついたんだもの。 森: この『at 武道館』で聴けるイエローモンキーの黄色い声援。当時の少女から絶大な支持を集めたってことで、とかくアイドル、ナンパバンドと思われがちだけど、チープトリックって、実際すごくいいロックバンドだと思うんだよね。まあ、確かにアイドルではあるんだけどさ(笑)。この声援ハンパないぞ。聞いたことない、「キャー!!!」だよね。 白: うん。すごくいいバンド。今回、聞き返してみてホントそう思った。 森: だけど、パンク(*)⇒グランジ(*)的なロック・ヒストリーからは外れちゃってるというか、どういう位置づけなのかってのが見えにくいとこあるじゃん。一般にはパワーポップ(*)の元祖だとか、アメリカ版ピストルズって感じの位置づけみたいだけど。 白: うーん、確かに忘れられがち。世間的にはビートルズのフォロワーどころか下手すりゃヴァン・ヘイレンと同列に語られちゃってる気がする。 森: いやチープトリックは、まずは「アメリカにおけるビートルズの正統フォロワー」でしょ。 白: どこらへんが? どうしても、そこは森くんに語らせたいんすよ。 森: いや、一目瞭然じゃん! 誰がどう見てもそうだろう。一番正しい後継者だって気さえする。「わかってる」バンドだよね。チープトリックは。 白: 一目瞭然? 見れば分かると。 森: そりゃあそうでしょ。まず、すっごいショボいところから話をすると、チープトリックのビートルズカバー。「デイ・トリッパー」とか、「マジカル・ミステリー・ツアー」なんかのカバーをしてるよね。ジョージ・マーティン(*)にプロデュースを依頼もしてる。 白: はいはい。 森: あと、ジャケットの4分割マナー(*)。これはもう正しくビートルズでしょう。メンバー4人のバンド内でのウエイトがきっちり均等になるように、ジャケにも配慮してる。で、単にビートルズを踏襲してるんじゃなくって、裏ジャケが表ジャケのオチになってるっていう。 白: もう、「わかりすぎ」だよね。そこは。キモ・ギタリストとハゲ・ドラマーは裏ジャケでね。トムとロビンが表ジャケ(*)。 森: そうそう。表と裏で差別されてんだけど、でも、ちゃんと4分割なんだ。で、ここから先が重要なんだけど…って、ジャケの話ばかりで恐縮だが、やっぱりまずはそこなんだよね。メンバー4人を全部足すとクラスの全男子の法則。これを、ビートルズもチープトリックもしっかり満たしてる。ビートルズで言うとさあ、ジョン=不良・マッチョ、ポール=学級委員/優等生、ジョージ=文科系硬派(ミステリアス)、リンゴ=ザコ、胃腸が弱い、勉強(音楽)できないっていう。 白: なるほど。 森: 要するに、ビートルズはクラスの男子全員を4分割してるんだな。で、チープトリックも然り。チープの4人を足すとイコール、ビートルズの4人で、それはイコール、クラスの全男子なんだ。けれども、その「全男子」をどう分割するかっていう、その分割の仕方にオリジナリティがあるね。 白: ビートルズの4人をバラバラに分散して表現してるわけね。 森: そうそう。チープトリックで言うと、ロビン=王子様・人気者っていうのはそうだし、トムはナンバー2、つまり、本当はナンバー1ってポジション。で、リックがキモオタで、バーニーは不良、フケツ、オッサン、自意識なさそうなヤツって感じで全部入ってるな。だからさ、たとえばジョンは、ロビン:トム:リック:バーニー=3:3:2:2って感じで作れる。ロビンのマッチョネス、トムの二番目感、リックのウザさ、バーニーの不良・ルーズ。 白: なるほどね。 森: そういうところがねえ、ちゃんと「わかってる」なあと。まあ、白木をチープトリックでたとえると、リック:バーニー=5:5、要するにキモオタのオッサンと。こういう風に誰もが自分をしっかり合成できるようになってる。 白: キモオタのオッサン…最悪じゃないか! 森: 結構ねえ、そのホモソーシャルな構造ってのが、当時の黄色い婦女子にウケてた理由としてあるんじゃないかなあって思うんだよね。クラスの男子だけで仲良くやってるっていう、男だけの友情世界演出できてるじゃん? 白: ああ、そういう話か。湘南爆走族的な話しか。 森: 湘南…まあ、えっと、それでいいのかな。チープトリックを解く鍵として、「ホモ」ってキーワードは結構重要だと思うんだよね。誰も解こうとしないわけだけど、チープトリックなんか。「なんか」って言っちゃった(笑)。 白: 「なんか」とは酷いな! 今回あらためて聞いたけどホントにいいバンドだもの。特にギターは手本にしたいくらい。 森: 単純にさ、ロビンとトムのイケメン二人のやおいが想像できるってのが1つ。 白: そこはわかりやすいな。 森: まあね。でも、それ以上に大事なのは、リック・ニールセンが、これ、ホンモノのホモを代表してるってことだな。 白: どういうこと? 森: 言ってみれば、ロビンとトムのやおいは「そうあったらいいな」のホモ、ニセモノのホモだけど、リックのホモは「そうじゃありませんように」のホンモノのホモなんだ(笑)。 白: うん、そういう意味ではみんな感じとってたね。というのも、あまりにもキモすぎるからね。 森: 別にホモ=キモでは全くないけどね。たださあ、あの服装はやっぱ女の子ウケってのとはちょっと違うと思うんだよ。 白: リックの服装の話? 森: もちろん。ここ、大事なところでね。 白: うん。 森: まあ、小学生とか中学生くらいってのは、いるんだよ、ホモ予備軍が。その後もいるけど。 白: そう言えば、いたなあ(笑) 森: でね、ちゃんとそこも含めて、4人でクラスの全男子の法則を満たしてるんだ。うーん。女の子の前に、男の友達がとっても大好きって時期があるでしょう? その大好きって実は相当まっすぐな大好きで、言ってみればギリシャの友愛とか、そういう感じのね。 白: あるね。 森: で、そういうのでさ、「ぼくは○○くんが好きだけど、この好きって、<あの>好きでいいのかなあ」って悩みとかありがちじゃないすか。 白: そうそう、でもそうならないようにする仕掛けがいろいろあったりするんだけどね。例えば、好きな女の子を言い合うとか。 森: うん。で、そういうとき、そういう子ってのはすごく困るわけよ。自分と一番仲のいい男の子の「好きな子」とか聞いちゃったり、自分の好きな「女の子」を言えとかさ。 白: ホモ予備軍はさらに悩むんだな。そこで。 森: そうそう。でね、話が長くなったけど、結論を言うとさ、リックがそこにいてくれる、バンドの中で4分の1っていうのはさ、もう、これは一つのメッセージなんだ。「ぼく、このままでいていいのかな」っていう子に対する「いていいよ」のメッセージなんだ。って、この話、全然ついてきてないでしょ(笑)? 白: いや、よくわかるよ! リックだけじゃない、ホモだけじゃないよね。人気者からダメなモテない男子にもいってるよね、バンド全体で。 森: 奥さんもいるし、リックは本当にホモってことじゃないんだろうけど、リックのバンド内でのキャラがそういう風な解釈を許すっていうかね。この分割はほんと見事だと思うんだよ。たとえばバーニーは、まだ好きな子いない、そういうのわからないって風情漂わせてない? 白: いや、全く漂わせて無・・・、もう、ぷんぷんっすよね!そういう雰囲気。 森: 逆に、知らない間に家庭教師の先生と既に「すましちゃった」って感じもある(笑)。「不良」な臭いと、足りない、ボーっとした臭いと。二つ、感じるんだな。 白: 話し聞いていると、バーニーも相当重要だな。リンゴなんかより難しい役じゃん、それ。 森: そうそう。だから、これはすごい分割なんですよ! ぼく以外言ってる人聞かないけど(笑)。この黄金分割をやりたくてもねえ、なかなかできないんだな。スマッシング・パンプキンズ(*)とかさ、イイ線いってるけれど、まだまだでしょ。スマパンはさ、チープトリックには無い要素を入れようと思って頑張ったわけだよな。 白: 無い要素? 森: ダーシーって女性ベーシストを入れたり、ジェイムス・イハ、日系人を入れたり。そういう方向でバラエティ出そうとしてる。 白: 全然、入っているな。ビリー、自らハゲになってみたり。 森: あ、あのビリーのハゲは足りない要素補おうっていうハゲなのか。知らなかった(笑)。まあ、多文化って要素、女性っていう要素はチープトリックにはないからね。そこをやろうとしたんだけど、ご存知の通り解散しちゃった。解散してさあ、ビリーほどの才能があれば、別にソロでやれなくもないのに、あいつがあれだけバンドにこだわってる理由って、多分そこにしかないよ。つまり、チープトリックを知ってる、ってことなんだ。 白: チープトリックがビートルズのフォロワーであるように、スマパンもまたチープトリックの後継者だったんだな。 森: アクセル・ローズ(*)がなんで「ガンズ」ってバンドにこだわってるのかもチープトリックにあるでしょ。バケットヘッド(*)入れてみたり、すごくルックス重視してる感じがある。 白: そこもあえて同調してみよう! 森: 「あえて」っていうか、絶対そうだよ。ガンズのチープ好きは有名らしいけど、高校の時、ガンズとチープトリックをはじめて聞いて、同質のものを感じたよ。特にさあ、あ、ここから音楽的なことに触れていくんだけど、準備いい? 白: もちろん、OKさ! 森: ぼくね、さっきコンビニに行ったら、たまたま有線でガンズ&ローゼスがかかってたんだよね。 白: すごいな、有線。 森: でさ、アクセルの歌聴いて思ったんだけど、結構、ロビン・ザンダーの影響受けてるとぼくは感じる。 白: うーん、そりゃアメリカのロック・バンドという共通点があるし、世代的にも兄弟くらいの違いじだからね。それ以上に何かあるわけ? 森: あるある。声質が違うからわかりにくいけど、歌い方似てると思うな。アクセルの個性を抜くと、ベースにあるのはロビンって感じがするんだよ。 白: 確かスティーブン・タイラー(*)よりはロビンの方に似てると思うけど。似てるというか影響受けてるな、と。 森: ぼくが似てるっていったら、似てるの! ちゃんと聴いてみなよ。テクニックじゃなくって底に流れてるもの、同じだって感じるはずだから。大事なのはさあ、チープトリックって4人編成で、特にそこまで変わったことしてないのに、音がカラフルじゃん? 白: そうだね。ギター、ドラム、ベースという編成のわりにはカラフルだね。 森: 楽器、道具もおもしろいもの、一見して個性あるもの使ってるでしょ。トムの12弦ベースとか、バーニーの極太スティックとか、それに、リックの5つギター(*)。5つで1つのギターって、すごいよね。5つなのに1つ? 1つなのに5つ? あれ、度肝抜かれなかった? ![]() 白: 抜かれないわけないじゃないすか! ああネックが5で1つ? どういうこと?ってなるに決まってんじゃん。 森: 今でもよくわかんないけどね。よくわかんないけど、すごい(笑)。 白: あれ、ちゃんと弾けるのかな?すごく重いと思うんだけど。 森: 変形自転車じゃあるまいしなあ。 白: オレ、ある程度ギターに関する知識は持ってんだけど、あれはちゃんと弾けるかどうか、正直、今でもわからない。 森: いやいや。お前には弾けないよ。リックにしか弾けないんだ、あれは。リックくらいのテクがないと無理なんだな。 白: って、「テク」の問題なのか? まあ、オレの方が速く弾けるけどな。 森: よっ! 浪速の最速ギタリスト! でも、このバンド、メンバーみんな素晴らしいけど、やっぱり一番はリックのギターって感じがするよね。 白: このライブ盤を一聴してわかるね。並みじゃないリックのギター・テク(引き出しの多さ)。 森: あー、リックは引き出し多いよね。ソロとか弾かずにこれだけインパクト残せるってのは、さすがって感じ。 白: まずリックだけど、次点でバーニーかな。 森: バーニーのドラムは…これ、ほんといいな。 白: ギターとのコンビネーションもばっちしなんだよ。 森: ドタスタしてんだよね。プレイもリンゴ・スターに近いものを感じる。叩きすぎない。で、ガツ、ガツ、ガツ、といく。 白: バーニーはすごくタイトなドラムだよね。森くんが指摘したようにガツガツ行くタイプのくせにタイトだな〜と思った。リズム・キープがやけにしっかりしている。まあ、時代がそうだったということかな。 森: これさあ、相当アンサンブルいいと思うんだよ。最近のバンドでこれだけかっこいいアンサンブル聞かせるバンドってなかなかないよね。でも、チープトリック、音楽的な評価低い(*)でしょ? 白: なんでなんだろね。ホントに評価低すぎる。このライブ盤聴いたら相当腕があって、頭も切れるバンドだっていうのがはっきりわかるんだけど…やっぱリックのキモさが評価が低い原因なのかな。 森: ぼく、そのキモさが大好きなんだけどなあ(笑)。うーん、芸人というか、色物と見られてるところはあるでしょ。ピック大量にばらまいたりさ。ヘンなギターもたくさん持ってるし(*)。いいんだよ、それで! ギターとピックは多いに越したことないんだ。リックだって、弾こうと思ったら絶対弾きまくれるはずなんだよね。でも、そうはしない。それなのにチープトリックってさあ、なんかベイ・シティ・ローラーズなんかに近い扱い受けてるよね。 白: 音を聴けばはっきり違いがわかるよね。 森: そうなんだよ。あとね、楽曲もほんといいと思うんだよ。パワーポップとか言うけれど、サビ前までとにかくグイグイ力で押してく曲が多いでしょ? このアルバムにも入ってる「Look Out」とか。 白: 曲いいよね。やっぱ、リック凄いミュージシャンだわ。 森: メロディがキャッチーっていうけれど、サビやサビ前はフック抑え目だと思う。 ロビンのボーカル、力で押してたり。 白: まあ、ボーカルの力押していうのは感じるね。もちろんなんで押せてるかっていうと、ボーカルの背中をギターをはじめとしたバックが押してあげているからなんだよ。俗に言うインタープレイというやつだと思うけど。モロに感じるけどな。 森: うん。バンド全体がそうだよね。あと、あんまり触れられないけれど、ロビンのギターもうまくない? 白: かなりうまいんだよ、これが(笑)。 森: うまいよねえ? 最初、サポートミュージシャンいるのかと思った(*)。 白: バンドとしてもボーカルのギターを相当戦力として活用してるよね。ステレオで右左に振ってるのがなによりの証左ですよ。 森: そうそう。この左右振りのわかりやすさも好きなんだよね(笑)。「どっちがリック?」とかならなくていい(笑)。 白: 音色もしっかり練られている。5曲目「Need Your Love」のギターアレンジなんてすごく良いお手本でしょ。アマチュアバンドだとギター2本の場合、すぐ単音担当と和音担当にわけやがるけど。ロビンはちゃんとオカズをリックとユニゾンで弾いてますよ(*)。バッキングもコードストロークにとどまらず。 森: そうそう!!ユニゾン弾いて、ずれてってリズムがすごく気持ちいい! これって、間違いなくロックの快感だよね。これもリックの計算なのかな。 白: そこ! それがリックの上手さなんだよ。こいつただもんじゃねえと思うとともにね、ぼくはこう思うわけ。 森: なに? 白: 当たり前な話かもしれないけど、リックはチープの前に地元のクラブでR&Bのバンドで修行したんじゃないか、と。 森: あー、大事なポイントだな。R&Bフィーリングめっちゃ感じるよね。イリノイ出身だし。アンサンブルの輪郭がクッキリしてるのにコクもあるんだよな。 白: あのズレはロックバンドでボーカルが担当するサイドギターとやるアンサンブルじゃない。 森: ないない(笑)。 白: 繰り返しになるけど音色も重要だと思うんだよ。ぼくは自分のバンドでやっていて、そこ結構苦労するところなんすよ。2本のギターの音色が違いすぎてもいけない。似ていたら意味がない。で、その微妙な設定なんてもちろんアマチュアミュージシャンではとてもじゃないけど阿吽の呼吸とかではできないっすよ。チープの場合も案外そうだと思う。ロビンのギターアンプの設定はリックがやっているはず。これはオレ自信あるね(笑)。 森: 出た!! 「自信あるね」(笑)。 白: さっき言ったことを覆すけどね。ロビンはそこまで上手くないはずだ! 森: ぶっ!お前、さっき二人で「うまい!」って同意したじゃないか! 白: 上手く聴かせているのはリックのアレンジ力でしょ。それにしてもこの曲順とかいいな。 森: 曲順いいねえ。曲順含め、プロデューサーのジャック・ダグラスも絡んでるんだろうけどね。なんかさ、フラストレーションのため方と、それの解き放ち方がすごく上手いんだよね。「Need Your Love」とか、さっき白木くんが言ってた曲だけど、陰気なブルースっぽい曲じゃないすか。 白: うん。 森: で、その後にボーカルなしでインタープレイを聞かせてね。6曲目の「Ain't That a Shame」のイントロで。インタープレイの後は、ジョン・レノンもカバーしたエイント・ザット・ア・シェイム。ここにもビートルズが見えるんだけど、これが古風なロックンロールだよね。多分さあ、ここの連続で結構キッズは退屈すると思うんだよ(笑)。 白: 6曲目あれすごいな。単純にビックリするわ。ライトハンド奏法で始まって、ソロで渋いボトルネック(*)ですよ。しかも、ギター2本で掛け合っているアレンジ!! ちなみに、一瞬だけどビートルズのメロディをフェイクした短いフレーズも入っているよ。 森: エイント・ザット・ア・シェイムに? 気付かなかったなあ。 白: ライトハンドの使い方はこの人が正解だよね。森くん聴くだけで、リックがどういうパフォーマンスをしながら弾いているか、映像が目に浮かぶでしょ? 森: ええ、まあ、いや、えっと…ちょっと想像してみます(笑)。 白: とりあえず、顔はネックの近くに持っていってるよね! 森: うん。持っていってる。合ってた(笑)。 白: 結局、早く弾くためだけにやるんじゃないんだよ、ライトハンドは。どっちにせよ、速さだけだったらアルビン・リー(*)の足元にも及ばんしなあ。あれは「見せる」ためにある奏法なんだ。でも、6曲目も「I Want You To Want Me」の序曲に過ぎんな。5曲目からの、この持って行き方が大好き。 森: いいよねー。さんざんためといて、このわかりやすい名曲。I want youと来て、「to want me」と余計なもんを付け加えるチキン根性。デリカシーとも言うけれど。こういうところもすっごくビートルズだと思うんだ。 白: しーらぶずゆー? 森: そうそう。単純にI LOVE YOUって歌わない。なんていうかな。そこ、ちゃんと恥じらいもってしかるべきっていうか。 白: それをロビンに唄わせるのもいいよね。 森: ちゃっかりアイドルしてるんだよな。2曲目の「Come On」も歌詞がアイドル想定なんだよね。「ヒツジの群れの一匹にならないで。カモンカモン。おっかけてきて」って歌詞だから(笑)。I want・・・は名曲だよ。で、この曲のバーニーのドラム。これがないとダメなんだよな。簡単そうに見えるけど。 白: その通り!んで、この曲でのリックの8小節の短いソロのセンス!フリッパーズギター(*)でも通用するわ。 森: ドラムのリズムキープがしっかりできてる上に、ロカビリー・チックっていうか…。 白: あ、それ感じるな。イントロのドラムから感じる。 森: こういうところに、しっかり温故知新が見えるよね。 白: ストレイキャッツ・バージョンの「恋はあせらず」だ(笑) 森: うん、うまい解説だ(笑)。この歌詞もねえ、単なるラブソングじゃなくって、きっちりティーンエイジャー・アンセムとして機能してると思うんだよね。 白: うんうん。 森: ロックの名曲10指に入る…って、ぼくは言ってるんだけど、これまた言ってるのはぼくだけだ(笑)。 白: その通りだ…いや、ぼくも言うよ。仲間に入れて下さい。で、ぼくで締め切りだ。ぼくら以外は言っちゃダメだ。というか言わない方がいいかも(笑)。 森: つーかさ、ほんと単なるアイドルバンド、「懐かしのあのバンド」扱いでしょう? 白: 扱いだね。まだ現役なのに。 森: この曲も単なる「口説き曲」だと思われてる節があるし…いや、そういう面も確かにあるんだけど(笑)。吉井和哉(*)のファンとか、ちゃんとチープ・トリック聴けよな。 白: 相変わらず良いこと言うなあ。 森: ジュディマリのファンもちゃんと聴くこと。ちなみにビートルズがわかっているようで一切わかってないのがYUKI(*)だと思うね。あ、こんなこと言うとヒンシュク買うか。 白: あっ、すごいよくわかる(笑)。あの人、わかってないね。 森: わかってない。影響の受け方と本人が思ってるものがすごく皮相的。さっき、ジュディマリのファンはチープ聴けって言ったけど、ファンじゃなくって、まずYUKIが聴け(笑)。まあ、どこにどう影響受けたかなんて別に本人の勝手だけど(笑)。それと音楽はまた別だしね。まあ勝手言いまくる企画だからこれでいいんだけどさ。 白: さっきからずっと聴き続けているんですけど、この9曲目の「もうすぐライブ終わりますよ」感はすごいね。 森: そこのねえ、オープニング曲をエンディングで繰り返す、オープニングとエンディングのサンドイッチもビートルズでしょ? オープニングとのアレンジの変わり方だよね。ベースがバーンと前に出たり、バーニーのドラムの「余力を一発一発に叩きつけるがゆえに弾数は少なくなる感じ」とか。 白: このテンポとか「ああ、もうこの楽しいライブが終わっちゃうの?」っていうのを予感させる。このアルバム何曲入っているかよく憶えてないけど、9曲目は確実にケツから2曲目の曲だ! 森: ケツから二番目の曲だ! って、「9曲目」だってちゃんと収録曲数覚えてんじゃん(笑)。全部で10曲だよ。9に1足しゃいいんだ。簡単な計算だ。 白: まさに手本のバンドだな、このバンド。 森: で、アンコールの「Clock Strikes Ten」。誰でも知ってる、きーん、こーん、かーん、こーんのチャイムメロディね。引き出しがこんなところまで。 白: 間奏でも弾いてるよね。コードとは合ってないのに弾いているところがまた憎いというか。ラストだからこういうこともしまっせ、つうことですわ。 森: そういうところまで計算できてるんだよね。ここまで緻密目にやったから、最後は暴れるぜ!ってことでしょ。バランスだよね。わかってんなあ。 白: オレね、100点あげちゃうね。ここでのリックのプレイは100点だよ。リックの職人ぶりがよくわかる。 森: ロビンのブチ切れシャウトぶりもすごいよね。喉潰れて声出てないのもご愛嬌だ。で、エンディングでの「とーむ!とーむ!とーむ!…」「ロビーンッ!!」っていう観客の悲痛な叫び。そしてそれがフェイドアウトして…。好きだなあ、こういうの(笑)。この余韻も素晴らしいよ。でも、今バンドやってるって人は、多分、一番ここらへん聴かないでしょ。 白: 聴かないと思う。 森: 白木の「満点」が出たのに。 白: いや、そうっすよ。なかなか出さないしね。満点は。 森: お前、調子乗るなよ。うーん、みんな頭の悪さやテクの悪さを誇ってるというかそこに開き直ってるというか。それがパンクだとかロックだと思ってる節がある。違うんだよ。味はいろいろあるけれど、まずは、ロックはアンサンブルなの!!でも、こういういろいろ盗めるいいバンド、お手本を無視でしょ? 白: うん、今一番危惧しているのは、もしかしたら、ここでのぼくたちの会話を深読みされて、全部皮肉と勘違いする人もでてくるんじゃないかってこと。 森: 皮肉? あ、つまり、チープトリックなんて「しょーもないバンド」を敢えてほめてみるっていう…。 白: そうそう。つまんないアイドルバンドをとりあげて玄人ぶりやがって、という話。 森: そりゃないだろ。 白: いや十分ありうるぜ。世間のチープへの評価ってそこまでの程度なんじゃないか、とビビッてます。 森: うーん。ぼくはねえ、チープトリックの評価が低いのは、彼らにはメッセージやポリシーがないと思われてるからだと思うんだよね。だから、バラードを歌ってみたり、ヘヴィメタルっぽいことしてみたり、アルバムごとにカラーを変えるとさ、フツーだったら「冒険的だ」とか「野心的だ」って評価されてもいいのに、チープトリックの場合は「ナンパだ」「うわついてる」って言われたりする。 白: 確かに。 森: ジョージ・マーティンやトッド・ラングレンなんていう売れっ子プロデューサーを起用するのも「腰がすわってない」という扱いでしょう? 白: だねえ。 森: いろいろやれるんだから「器用なバンドだ」「音楽性も広い」って評価もできるのに、それが全部ネガポジ反転して、「ハイハイ、売れりゃいいんでしょ」になってるんだよ。でもね、ぼくは彼らの音楽にはすごく強いメッセージ、ポリシーを感じるな。「ビートルズ」ってのはそれだけでメッセージだよ。ジョージ・マーティンの起用から、ルックスから、4分割から、ギターの絡み方から。そこにはキッズに対して「キミのことわかってるよ」っていうしっかりしたメッセージを感じることができるんじゃないか。バンドマンとして今でも演奏を続けているのだって、ポリシーなきゃできないことだし。1バンドマンに徹するっていうのは、目立ちはしないけど、すごく難しいことだと思うんだ。 白: 玄人ウケするにはもったいないバンドだよね。 森: もったいない。このバンドねえ、ウダウダ言ったけど、一番いいところは「わかりやすい」ってところだからね。とってもポップ。 白: ビートルズと一緒だよ。一聴してポップ、しかし、深読み、分析したらもっと面白い。一粒で2度おいしい、そんなバンドですよ。 森: 是非聞いてほしいよね。さて、そろそろ遅くなってきた。今日は遅刻したけれど、一応来てくれてありがとう。 白: いえいえ、いろいろご迷惑をかけました。すいません。 森: 本当だよ。もう遅刻すんなよな。それと父親の説教はちゃんと噛み締めろよ。大事なことが詰まってるからな。さて、白木くん、次回取り上げる作品は? 白: もちろん、二人が揃って大好きなキング・カーティス軍曹でござい! 森: それじゃ、長時間お疲れ様でした。 白: お疲れ様でした。 (2005・10・14) |
はみだし知子ちゃん |
「グラビア本よりブログ本が売れたッチ。」 |
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