神罰 田中圭一最低漫画集  田中圭一(イーストプレス・2002




 表紙を見てもわかるとおり、マンガの神様を筆頭に、永井豪、本宮ひろ志、横山光輝、福本伸行などの画風を用いたパロディ作品集。そのほとんどはしょーもなさすぎる下ネタのオンパレードという、名前を裏切らない最低ぶりだ。

 とにかく絵や作風の似せ方に対するこだわりには驚くなあ。8割以上をしめる手塚治虫パロディは特筆に値します。コマのアングルから、セリフから、オノマトペから、これだけ徹底したパロディ作品は、神をも恐れぬ豪快さんな開き直りは・・・前代未聞。特に女体の描き方に対する徹底したパロディぶりは尋常じゃない。

 巻末でのしりあがり寿との対談でも著者が述べている通り、「手塚治虫の描く女性は永井豪のそれなんかよりよっぽどエロい」のだといい、「手塚治虫はマンガ界でもっともダッチワイフを多く描いた作家だ」と豪語する著者の並々ならぬ執念を、その完全に手塚してる女体から感じてしまう。徹底したパロディを通して、神が降りてくる瞬間を捉えたこの作品集には、ちょっと他では味わえない魅力があるぞ。

 ビートルズのパロディバンドでラトルズってのがあるの、ご存知でしょうか。ギターの音色からドラムの叩き方、そして完全ビートルズしてる「オリジナル」の楽曲まで全てが徹底してるラトルズを、ビートルマニアはこよなく愛するわけですけれど、それと同型のパロディ魂=対象への愛情を、この作品には感じてしまいますね。

 ラトルズは『四人もアイドル』、『オール・ユー・ニード・イズ・マネー』なんて作品を残し、映画『ザ・ラトルズ』(ビートルズの歴史を総括した映画『コンプリート・ザ・ビートルズ』のパロディ)では、ジョージ・ハリスン(!)まで出演、モノホンのミック・ジャガーには「ストーンズを結成したのはザ・ラトルズに影響されたからさ」とまで言わせてしまった。本家とパチモンが協力して、大切に作り上げてきたラトルズ宇宙、ラトルズというカウンターパートが垣間見せてくれる可能世界は、ビートルマニアの桃源郷なのだ。

 和登さん、ブラックジャック、メルモ、挙句の果てには手塚先生ご自身まで出てくる表紙裏のマンガ(手塚プロダクション承認済み)や、手塚るみ子氏によるオビ文句「訴えます!」まで、手塚関係者も協力したこの作品集を見ていると、上のラトルズと同じように、みんなの手塚治虫に対する愛情を感じてしまって、ちょっと泣けてくるんですよね。好きじゃなきゃできないって。好きなだけじゃできないし。

 だけどラトルズと比較していったときに、どうしても見えてきてしまうのは、パロディの包括性というか、全体性が、この作品集にはないってことですね。ラトルズはビートルズの歴史をパロってなぞって、別の宇宙を創造するところまでいったけれども、この作品集は(短編集って性格や、寄せ集め的性格があるので仕方ないのかもしれないけれど)上で触れたような別の宇宙を創造するってところまでいけてない。そこが少し残念です。

 次作(出るのかわからないけど)は是非とも長編で、手塚オンリーでってのを期待してます。でも、著者の狙いは違うんだろうな。

********

 まずは手塚キャラを思いっきりつかった作品の掲載を許可した手塚プロや、手塚るみ子の粋なはからいに拍手ですね。ビートルズといい、手塚治虫といい、レジェンドになるようなアーティストというのは、やっぱりそういった遊び心まで含めた風格が違うよ。ウオルト・ディズニーはそこんところがつまらん。だから、そのパロディもつまらん。

 ラトルズ、興味ある方は聴いて見てください。ぼくは大好きです。「ヘルプ!」が「アウチ!」(痛い!)になってたり、「レットイットビー」が「レットイットロット」(腐らせろ)になってたりといった割かし直球のパロディから、「あ、これあの曲のメロディじゃん!」って思った瞬間、別のビートルズ曲のパクリに移ってしまうような手の込んだものまで、とにかその徹底振りにド肝を抜かれます。ビートルズを知れば知るほどおもしろい。ときどきパチモンの方にハッとさせられたりね。

 ラトルズでダーク・マクイックリー役(言うまでもなくポールマッカートニーのアレです。「汚く素早く」って感じですか?)を演じたのは、あのモンティ・パイソンのエリック・アイドル。実際にジョージ・ハリソンとも交友があったエリックは、コメディアンなのに歌もギターも達者でとても多彩な方。モンティ・パイソンのコントでは5分間くらい喋りっぱなしなんて神業を見せるエリック・アイドル、かっちょええですよ。

 モンティ・パイソンのコントの方にもビートルが出てますね。リンゴ・スターなんだけど、「BBCはお金がない」ってコントをさんざやったあとにリンゴ・スターが登場して一瞬でいなくなるっていう(笑)。

 あと、ロン・ナスティー役(ジョン・レノンですわ)をやってるボンゾ・ドッグ・バンドのニール・イネスもお忘れなく。こういうバカ聖人がいることが嬉しくってたまらないぼくです。

 表紙に描かれたブックオフに行く少女の絵もいいね。



◆書評リスト一覧へ戻る 
◆トップページへ戻る