ウケる技術  小林昌平・山本周嗣・水野敬也(オーエス出版・2003)


 嫌な上司とうまくやっていきたい、取引先となんとか契約したい、最近口をきいてくれない娘と話をしたい、合コンで出会った女と仲良くなりたい、ナンパを成功させい・・・でもできない。とかく人間関係というのは難しいもので、へえ。

 ビジネスや人間関係において、ユーモアや笑いが役に立つってこと、よく耳にするけど、この本のようにハッキリと「ユーモアを感じさせる、笑いをとれるってのは一つのスキルなんだ」って言ってくれるものはまれだ。この手のビジネス書の大半は、適当にユダヤジョークを紹介→いかに笑いは大切かというお説教→まあ、がんばれよ、おまえにもできる!っていう無責任な励ましってもんに終始しするものばかりだった気がする。そこに欠けているのは、ユーモアを「スキル」としてとらえる視点だ。本書にはそれがあるし、徹底してる。そこがいい。

 スキルってのは結局、知識と違って「知っているかいないか」ってものじゃなく、身に付けるものであり、訓練によってそれが可能になるものだ。で、本書はコミュニケーションにおいて笑いがとれることをスキルとしてとらえてるわけだから、本書を読んだだけで、「人様にウケるようになる」ってもんじゃないし、そのように編まれてない。でも、本書の指示する通りに努力・研鑚をつめばおそらくそのスキルを身に付けることができるだろう。この本には、そう思えるだけの工夫がなされてる。

 「フェイクツッコミ」「天丼」「ディティール化」「キャラ変」など、38のウケる技術を、シチュエーションや使い道に合わせて全て解説。加えて、それを使った例文を多数収録し、さらにはコミュニケーションにおける心構えや、スキル習得のための練習方法、チェックリストまで掲載するという徹底ぶり。 笑いは才能だと思われがちだけど、1.そこまでおもしろいことじゃなければ、2.人様とのコミュニケーションにおいて役立つようなものでよければ、ほとんどの人は努力次第で習得可能なのだ。そのことを確信させてくれる本書、その意義は結構あなどれないと思うぞ。

 例文や写真はなかなかおもしろいけど(なぜ全部ガイジン?)、やっぱりそこまで爆笑ってわけじゃない。それもこの本が基本的に上記1、2の習得をこそ目指したものであり、そうした基本態度が一貫してるからなんだろう。総じて誰でも笑える、常識的な笑いのセンスに合わせた感じだ。調子がいいときのパックンマックンくらい。

 もう一ついっておきたいのは、本書に見られるコミュニケーション観のこと。相手から自分にとって都合がいいアウトプットをいかに引き出すかっていうマキャベリ的スタンスと、「コミュニケーションは相手に対するサービスなのだ」っていう視点がぴったり重なってる。ぼくらは通常どっちかに偏りがちだ。人を利用してやれ!って言ってみんなにそっぽ向かれちゃうヤツ、相手に悪いから・・・とか言って遠慮して、むしろ逆にみんなの邪魔になってる、つまんねえヤツ。結構いるんじゃない?

 前者がなければ後者が立たず、後者がなければ前者もありえぬっていうのは、すごく現実的なコミュニケーション観であり、それって「人付き合いでみんなが幸せになる法」だと思うんだけど、どうでしょう?コミュニケーションに関して、今よりもっとずっとポジティブになれるってのも、本書を読んで得られる重要な副次的効果のひとつとして指摘しときたいと思います。

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 著者の小林→コピーライター、山本→トレーダーってのはいいけど、水野さん一人だけ、六本木クラブのストリッパーってのは何?ちょっと気になった。

 パックンマックンの例は、この本を読んでみたいって気をなくさせるかもしんない。でも、おもしろいときのパックンマックンは平均的なお笑いレベルだと思うんだけどなあ。あ、違うと思われる方は、多分絶好調パックンを見てないんだと思います。さすがハーバード大卒!っていいたくなっちゃうような、「フツウの笑いの構造研究したような漫才だもん。だから、例で使った。


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