『アホでマヌケなアメリカ白人』
マイケル・ムーア(著)
松田和也(訳)
柏書房 ISBN: 476012277X
¥1680
(2002/10)


 和書のタイトルとカバーデザインは確かにおもしろい(イラスト書いてる白根ゆたんぽって誰なんだ!?知ってる人がいたら教えて)。だけどぼくはそこに違和感を覚えた。なんだかんだ言いながらアメリカ白人にムカツいている日本人読者とアメリカという国との距離感、言ってみれば「ヤツらとオレらは所詮は他人」という感覚が、そこに既に最初から刻まれてしまっているのを感じるからだ。

 他人の不幸は蜜の味。隣の芝生は実は青くなかったという告発は、普段アメリカ人に中途半端な近代国家と言われ続けている日本人からすれば、まさに他では得られない快楽だろう。この本にはその種の「快楽」がたくさん詰まっている。アメリカに住んでない私たちにとって、「おもしろくないわけがない」本なのだ。しかし、この本の著者マイケル・ムーアこそがアメリカ人であり、彼のユーモアは、このやるせなさを前提に成り立っているということを思い起こす必要があるだろう。おそらく、そのやるせなさこそが多くのアメリカ人の心を打ったゆえのベストセラーなのではないか。

 立派な市民になる努力をすること、それは民主主義社会における最高の名誉の一つだ、といったことをムーアは言う。他の箇所では行き過ぎた表現も目立つこの本の中で、一番ストレートなこのセリフにこそ、ぼくは一番大事なことが詰まっていると感じた。



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