でも正直迷惑やわ。

 当サイトに掲載された香山作品、その記念すべき第一作。全ニ話。シネ神と香山哲という二大キャラがはじめて同時に登場したのも本作だ。

 当初の予定では「香山哲とシネ神の日常をそのまんまマンガにして一週間に1ページほど更新」ということだったんだけど、その構想が守られるのも、「香山哲・シネ神」というクレジットも、たったの2回で終了してしまう。以後はワンアイデア・ワンショットの一枚物になる。

 シネ神のキャラデザインに注目。猫っぽいというかシべリアンハスキーぽいというか、なかなか動物的な感じに仕上がっている。香山の髪型も若干不安定で、最新長編『ウィズダムじごく』と比べてみるとその違いは明らか。


←『ウィズダムじごく』でのシネ神。月の仮面の尖りも減り、なにやらかわいらしい印象に。目元の変化を比べてみよう。

→『ウィズダムじごく』での香山哲。こちらは髪型がマイナーチェンジ。当初は8:2分けだったのが分け目がなくなった。カマボコまなこで人懐っこさをアピール。

 第2話の見所は、シネ神の使っているPC。香山哲はNHKとは違う。メーカーなんて隠さない。シネ神は富士通製のPCを使ってネット将棋をしているのだということがわかった。それだけでも存在を喜びたい作品だ。 頭がこんがらがったときのグシャグシャの表現、オチなど、かなりわかりやすいマンガ表現を使っている。

 2回しかもたなかった…というより、他にいろいろなアイデアが浮かんできたんだろう。シネ神と香山哲が同時に登場する『火星のネクサス』シリーズはこれで終了。シネ神の説教、耳が痛いです。




特別ふろく 香山哲の七へんげ

 『火星のネクサス』第2話より。ごくごく初期の香山哲。なぜか8:2分けになってる。シネ神に常識を諭すという役回り。無地のTシャツを着用。眉毛もある。
『香山哲と薬屋さんのツールドフランス』第1話より。クラフトワークのビデオを見て涙を流す香山哲。いつも三白眼の彼だけど、ここではなんと四白眼! 左手のポーズにも注目。しかし、こいつよく泣くなあ。
 『ウィズダムじごく』第一章より。大食い競争のため、走って必死におなかを減らすシネ神を、自分だけ車に乗って高座から応援。高いところからシネ神を見下ろしてるのは気が狂う前から変わらない(↓参照)。髪の分け目がなくなり目もカマボコ型で親しみやすい。ただ、シリーズの随所で驚愕したり、あわてたり、精神がシネ神より不安定な印象。大きな事件には耐えられないのかも。
『臣民グランプリ1』より。痩せてる! 不健康そう。足もカンガルーみたいだし、アゴもシャクレ気味。遺伝子さえも無視して、人の形状を変える、憎むべきものは戦争と、それが生み出した貧困だ!
 『臣民グランプリ2』より。ラバウルで気が狂ったというウワサは本当だった! おそらくは初公開の、笑い声が印象的。「ヒヒヒ…」。気が狂うと髪型なんかどうでもよくなるらしい。それでもシネ神との友情関係は継続。二人の友情に涙した読者も多かった。
 『受験創世記シネ神』1話6ページ目より。この凶悪そうな顔を見てよ。なぜか始終関西弁。シネ神に「ええ話があるんや」と裏センター試験の情報を持ちかける。ほとんどのコマで右黒目がないのが怖い。明らかにとって食おうって腹や。
 『奨学金』より。同じ福本パロディ調でもこの違い。足下を見られて弱りはてる香山哲。受験創世記でのワシ鼻は修正され、憑き物が落ちた感じ。搾取する側からされる側へ!?
香山哲の立場は常にリキッドキャピタル。







ヒトの体内に番組として取り込まれる!!

 ドラ21の生まれた21世紀よりも一世紀後、22世紀はロボット大航海時代だ! おそうじロボットの恐るべき能力に迫る問題作。

 フリーハンドで描かれた枠線がいい味を出している。おそうじロボットの、生き物とロボット、どっちでもありそうな感じも見事に表現。シズル感高い。中盤までのなんともほんわかした感じから一転、恐怖のラスト。絵の乱暴さがこれまた心的外傷を大きくする。

←ゴミが無線で飛ばされてゆく! こんな非常識なアイデアが出てきても「そうなのか」と納得するしかないのが香山ワールド。不条理なのだが、なぜか心に残ってしまう。テレビやラジオを視聴するのが怖くなる。お風呂に入ってゴシゴシしたくなる。

 「同じお題で10分間で漫画を描いて勝負」というシネ神との遊びから生まれた作品だが、たった10分間でこれだけの妄想論理を展開できるのがすごい。特に「ゴミが無線で飛ばされる」というアイデアには脱帽。科学テクノロジーは物理を超える!おそうじロボットのルックスがチーズバーガー・チックなのも人類の普遍的無意識に訴える怖さがある。ゴミを捨てられなくなる。

 今回のアーカイブでは、シネ神が書いたおそうじロボットも同時掲載。『この世の果てのアリス』上巻を読んだ人ならわかると思うが、シネ神、実は絵がうまい…のだが、ここでは荒れた絵をしています。すぐバイオレンス、文脈ナシがシネ神漫画の特徴。







今では勝者が日本の思い出として土をアメリカに持って行くのである。

 『おそうじロボット』と同じく、シネ神との10分漫画勝負で描かれた作品。日本とアメリカの貿易摩擦から、野球選手の輸出まで制限されて…といった内容。

 10分間という時間制限はやはり厳しく、ユニフォームの描き込みやピッチングシーンの絵は甘いものの、いつも通りの「香山節」が聞けるので、10分でこれができるなら、1時間で六本。ガンガン描いて欲しいとも思う。出場高校の名前が「天魔高校」。ここにもビックリマンの影響、というか、ビックリマンが出てる。基本的に哲先生、迷うヒマがあったらビックリマンなのだ。

 天魔高校ピッチャー・スザカくんの顔が無表情なのがなんか腹立つ。勝った上に砂まで持っていくのだが、「日本の思い出」として持ち帰るというわりにはどうでもよさそう、単純作業、とりあえずやってる感じだ。つまんなさそう。でも、来年からのピッチャーの輸出制限と聞くと、彼の無表情もわかる気がしてくる。

←問題の4コマ目。スザカくんのコントロールは日本国内、海外アメリカ、向かうところ敵ナシ? 「ストラーイク(?)」「136km/h(?)」と、なぜかクエスチョンマークがついている。語尾をあげて読めってこと? よくわからない。

審判が月の仮面を装着しているのを決して見逃すな! 手のポーズもまんま「ターゲット!」と発音したときのシネ神だ。未来社会ではシネ神教はここまで普及してるのだ。


 スピードと正確さとカリスマ性と競うというわりに、スザカの投げる球は136キロ/時。今時、もっと速く投げられるヤツがいてもおかしくない。ましてや未来の甲子園ならもうちょいレベルアップしてるだろ。このことから、スザカくんはスピード以外の要素で選ばれた可能性が高い。カリスマ性を問題にすると、どうも愛想がない感じだし、4コマ目の絵から、コントロールが抜群だという結論にいたったんだけど、キミはどう?

 『シネ神と甲子園』も同時収録してみます。とにかく思いっきり。それがシネ神。つーか、シネ神は野球やったことがあんのか!?








日本の国土っ!

 終戦記念日に描かれた戦争マンガ。続編として『臣民グランプリ2』が、同じく戦争モノの系譜としては、、『ドラ21』『9.11カミカゼアタック!』(それにしてもすごいタイトルだなあ…ぼくが言ったんじゃないからね、哲先生がそういう名前つけたんだからね!)などがある。

 哲先生は戦争モノ漫画にとてつもない情熱を燃やしていて、資料収集にも熱心なので有名。古本屋をまわっては戦争資料を物色しているという。愛読書は『はだしのゲン』で、ゲンを読んでは「米が食える。ぼくはしあわせだなあ」とつぶやいているのを何度か耳にした。

 水木しげるの質で戦争をマンガ化できるのは、戦争を知らない子ども、香山哲先生をおいて他にいないでのはないかとぼくは期待している。哲先生の戦争観は非常に庶民的で、ニュートラルなんだもん(この『臣民グランプリ』はノリが大きいけどね)。

←「決起セヨ!! 決起セヨ!! 玉砕セヨ!!」。こんな礼状を送りつけてきたのは今はなきナゴムレコード。有頂天になってると、人生いきなり奈落の底に突き落とされるのだ! 電気ビリビリ。体中に衝撃が走る。

 本作、アカガミの差出人がナゴムレコードだったり、ポストマンがもろ松本零士してたり、持ってきたのが打ち切り届けだったりと、くすぐりは多い。が、やっぱりラストが衝撃的。遠慮なく狂っちゃうんだよなー(笑)。「日本の国土っ!」。発言が意味不明。既にこの時点で相当狂ってたんじゃあないのか?

←どっかで見たような…いや、確実に見たことあるぞ、このポストマン。別漫画世界の住人さえ、ドグマ世界には唐突に現れる。胸のバッジに注目。にやけたポストンの顔がコワイ。

 ま、でも、それも当然。打ち切り届けとアカガミ、二つ一緒に届いてまともでいられる人なんかいるわけがないしね。「オー!」とみんなで手をあげたシーン。やはりギッチョが結構な数混ざってる。こだわりのシーンだ。「そして4日後…」なんとなく、不吉だよな、4って数字は。

 狂った香山はどうなった? 話は『臣民グランプリ2』に続くのだった。