デビルちゃん



キヒヒ…



←ダイナミックに「ドロローンッ」! 永井豪に敬意を表して、お約束のオノマトペ。ツノツノ、二本、ツーホーン! デビルちゃんの登場だ。悪魔が聖書から出てきたり、悪魔「が」魔方陣を呼び出したり、短いマンガながらもひねりは十分利いている。デビルちゃんは、ドグマ出版オンラインのトップページ画像にも、ヒュマノスらと一緒に登場した、初期ドグマ出版の看板娘。いずれまた聖書から飛び出してくるかも。みんなも、道に聖書が落ちてたら、すばやく距離をとるようにね。


 『この世の果てのアリス[上]』に収録。「考えられる限り、とにかく最もエロいマンガを描こう」。芸風、テーマの拡大に努力していた当時の哲先生が、人の家のエロ本に目を通してまで、がんばった作品。「エロマンガ」を描くつもりで描いたというけど、一体どうやったらこうなるのか。どこがエロなのか。いぶかる人がいるかもしれない。が、ちょっと待って。他のドグマ作品と比べてみよう。ひとたび相対的に考えて見れば、作中エロ濃度はかなり高いということがわかるはずだ。

 なんといってもキス・シーンがあるんだもん! 実は、このキスシーン、ドグマ史上初。歴史に残る、文字通りの「ファースト・キス」なんだ(ファースト・キスと言ったけど、ヘタすると、これまでのところ唯一のキス・シーンかもしんない。他にキスシーン、見た覚えないし。今後もキス・シーンがないということは十分考えられるので、これが最初で最後のキス・シーンということさえありうる)。

 しかも、その初キスは、♀×♀! 女性と女性のキスになっているんだから、ますますエッチだよね(デビルちゃんが女性だとして)。はじめてのキスだもの。首から血を流さんばかりの、熱烈な接吻になっちゃうのもムリないなあ…って、よく考えてみれば、これ相当過激なマンガじゃん。 実写で映画化したら、間違いなくR18指定と見た。しないけど、実写化。

 キスするデビルちゃん、胸もないし、仕草も幼女っぽいしね。そういう意味でも、危ない。


 
↑この魔法陣、どこかでみたような…。哲先生にしてみれば、自分の名前ほどに描き慣れた、ビックリマンの魔法陣じゃん!


 他にも問題シーン山積みの本作、残虐度で計ってみても、ドグマ作品中、一、二を争う高得点だろう。ここまで生々しく血や骨を描いたのも、哲先生にしては珍しい。「うわーん、いたいよう…」と言われても、そんな痛いように見えないし、木の実のおかげか、トロ〜ンとしてて、むしろ気持ちよさそうな感じにも見えるのが救いだけど。


←中国原産、奇形犬!? 問題のシーン。ビートルズのアニメ『イエローサブマリン』に出てくるブルドッグは、頭が4つあったため、登場シーンをカットされてしまった。「デビルちゃん」、時代が時代、場所が場所なら実写化どころか、アニメ化も危ういかも。デビルが聖書から出てきちゃってるしねえ…。この犬、女の子を食べるとき、尻尾を振っているのがカワイイ。眼がロンパってるのもポイント高し。







 それにしても、これが『この世の果てのアリス』に収録されてるってのもすごいな。哲先生の単行本を買った人の中には、小学生も結構いるとか。だとすると、このギャップに驚いちゃうかもね。たとえていえば、『鉄腕アトム』を買ったら、『奇子』の予告編がついてたって感じじゃないかな。いつか、「デビルちゃんで性の目覚めを覚えた」って子が出てくるかもしれない。その日が楽しみだ。

 脈絡もなく、自分の気の向くままに、欲望を満たすデビルちゃんの奔放さが爽快で、危険だとはわかっているけど、ぼくは抗えない魅力を感じます。愛すべき小品。






砂の指輪



マイナスにはマイナスをかけてプラスにするんじゃよ…



    

↑「砂の指輪」では、わかりやすい手塚治虫パロディが随所に見られる。コマ外のローマ字落書き(右)や、ツボを被ったシーンでの、泡入りフキダシ(左)など。「KANKEI NAI DOUBUTSU」って言うけど、関係ないのをいいことに、好き勝手な格好、目が4つもあるのは無視できない。


 『この世の果てのアリス[上]』に収録。記念すべき、香山哲先生初の投稿&ボツ作品にして、、また現時点で唯一の投稿作品。哲先生が商業誌掲載はとにかく後回し、先にドグマ出版を設立する重要なキッカケになったのが、この「砂の指輪」だ。哲先生によれば、「砂の指輪」は「生まれて初めてちゃんと最後まで描いた漫画」だそうだ。1話1ページの読みきり物はそれまでにもあったけれど、8ページもの長さでしっかり作品が完結したのは、言われてみれば確かにはじめてかも。後に『この世の果てのアリス』にとりかかる上で、「砂の指輪」の完結は、大きな自信になったに違いない。そうした意味でも見逃せない作品だ。

 今読むと、絵に未熟な点があるのは仕方ないとしても、香山哲先生得意のセリフ芸は存分に楽しめる。「誰よりも早く起きた。誰よりも!!」「よし、随分と不幸因子が減ったぞ」「ああ、水に値を付け、歩いて値を上げ」など、短い中にもセンスの光るセリフが多く、テンポがよい(反面、説明的なフキダシも多いけど)。

 おとぎ話、童話のようなストーリーなので、いろいろ教訓は引き出せそう。「身の周りの不幸は消せても、自分自身のマイナスは消しちゃダメ」とか、「ネガティブな行為だけでは、無に向かうパワーの方が大きいから、足し算の結果、最終的には追い詰められるだけ」とか。好きに読んでくれということなんだろうけど。

 ただ、多くのおとぎ話同様、解せないところもある。特に水をもらったおじいさん。水のお礼に、ツボにソドムの頭を突っ込むなんてひどすぎる。しかも、このツボ、どういう効果があるのか、何のつもりなのか、よくわからないしね。「お前はこれで別人なのだ」と言ってるけれど、それにしちゃあ、母親はちゃんと息子のこと認識してるし。ちょっと辻褄が合ってない気もする。おじいさんの言う通り、マイナスにマイナスをかけてプラスにしようとしただけなのに、ツボに指輪を向けたら、プラスどころか、砂、全部ゼロになっちゃうし。辻褄どころか、計算も合ってない。

 1ページ3コマ目。ソドムの家がとても貧乏だということを表すために、ガリガリの犬が登場するのが好きだな。貧乏な家って、貧乏なくせに、貧乏だからか、犬を飼ってたりするんだよね。母親の瞳にも貧乏の悲しさがにじみ出てる。目が虚ろだもの。

 これまでも単行本では読めたけど、ネット上で完全版が読めるようになったのは今回がはじめてだよ。まだ読んだことない人はじっくり楽しんでね。